artscapeレビュー
2014年10月15日号のレビュー/プレビュー
ヘルシンキ空港
[フィンランド、ヘルシンキ]
ヘルシンキで感心したのは、空港や公共施設など、どこでもWi-Fiフリーの環境が当たり前のように存在していたこと。日本のWi-Fi環境も、これに見習って、もっと良くなって欲しい。またフィンランドの空港の什器も何気にインテリアがカッコいいし、待ち合いの座席に間仕切りもない。一方、乗り換えで滞在したモスクワの空港は、ほぼすべての椅子に間仕切りをつけ、長時間を過ごす乗り換え客は辛いだろう。
2014/09/23(火)(五十嵐太郎)
フィオナ・タン まなざしの詩学
会期:2014/07/19~2014/09/23
東京都写真美術館[東京都]
時間がないのに最終日に駆け込んだ理由はただひとつ、ロンドンのサー・ジョン・ソーン美術館を撮った映像が出ていると聞いたからだ。だからほかの作品は飛ばしてその作品《インヴェントリー》しか見なかった。ジョン・ソーンは18-19世紀の建築家で、収集した絵画や彫刻、建築の断片やレプリカを自宅の壁にびっしり並べ、一種の迷宮世界を築いているのだ。フィオナ・タンはその美術館に6種のフィルムやビデオなど異なるカメラを持ち込んで撮影し、サイズの異なる6面スクリーンに重層的な世界を映し出す。でももっと奥深い迷宮をのぞいてみたかったなあ。
2014/09/23(火)(村田真)
野口里佳「父のアルバム/不思議な力」
会期:2014/09/19~2014/11/05
916[東京都]
オリンパス・ペンは1960~70年代に一世を風靡したカメラである。何といっても、通常の35ミリフィルムの半分のサイズ、72枚を連続的に撮影できるという利点があり、家庭スナップにぴったりだったので多くのアマチュア写真家に愛用された。もう一つの特徴は、普通にカメラを構えて撮影すると縦位置に写るということで、そのため「狙って撮る」ポートレートに向いていることだ。周りが写り込んでしまう横位置のフレーミングにはない、被写体とストレートに向き合っている感覚を定着できるのだ。
今回、野口里佳は、2013年に亡くなった父がオリンパス・ペンで撮影していたネガから写真を選び出し、自分でプリントして展示した。いうまでもなく、父が見ていたものを追体験することが目的なのだが、単純にそれだけではなく、写真自体のクオリティの高さに驚き、プリントしたいと強く思ったのではないだろうか。写っているのは、野口の母、野口本人と弟と妹、父が育てていたバラなどであり、撮り方も穏やかなスナップで、取り立てて「作品」にしようと気張っているわけでもない。にもかかわらず、そこに写っている光景には、時代の空気感が色濃く漂っており、的確な光の捉え方とフレーミングは、写真家としての力量の高さとしかいいようがない。その才能が娘に受け継がれたことは間違いなさそうだ。
なお、同時に展示されていた「不思議な力」のシリーズも、同じオリンパス・ペンで撮影され、インクジェット・プリントに大きく引き伸ばされている。野口が、父の撮影した家庭アルバムに触発されつつ、それを自分の問題として咀嚼して、光、影、氷結、磁力など日常にあふれ出てくる「目には見えない不思議な力」の正体をさぐり当てようとしていることがよくわかる。二つのシリーズの組み合わせに無理がなく、だが同時にそれぞれの方向に大きく伸び広がっていて、心地よい視覚的な体験を与えてくれる、とてもいい展覧会だった。
2014/09/24(水)(飯沢耕太郎)
ホイッスラー展
会期:2014/09/13~2014/11/16
京都国立近代美術館[京都府]
19世紀後半、パリやロンドンを拠点に活躍したアメリカ生まれの画家、ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(1834-1903)の大規模な回顧展。歴史を物語る絵画やその慣習的な絵画のルールを否定し、視覚的な美を追求する唯美主義を主導したホイッスラーの初期から晩年にかけての油彩画、水彩画、版画など約130点が紹介された。展示はホイッスラーが主なモチーフとした人物画と風景画、唯美主義の画家として独自の表現のスタイルを確立する大きな契機となったジャポニズムという3つのセクションによる構成。何が描かれているかという主題ではなく、どのように表現するかを重視したホイッスラーが、「アレンジメント」や「ノクターン」などの音楽用語をタイトルに多用したことにもふれた展示は、解説と作品を見合わせ、なるほどと納得しながら理解を深めることができるものだった。知識は浅い私だが、画家が追求した絵画の色彩やコントラスト、構図など、画面の要素に余韻や空気感という趣をあじわい、新たな作品の見方ができたのも嬉しい。特に、ラスキンを名誉毀損で訴えることになったという曰く付きの《黒と金のノクターン ? 落下する花火》はそのドラマ、この作品に関するホイッスラー自身の言葉も興味深く印象に残った。できるなら会期中にもう一度見にいきたい展覧会。
2014/09/24(水)(酒井千穂)
猿の惑星 新世紀
映画『猿の惑星 新世紀』(マット・リーヴス監督)を見る。異民族との共存か、過去の恨みを引きずる好戦派の陰謀による戦争か。理想的な指導者の敵が内部にいることも含めて、面白い物語だが、当然、猿の世界を描いているわけではなく、古典的な人間社会の寓意だ。したがって、アメリカの銃社会も意識しているだろうし、日本の現状と照らし合わせて考えることもできる。それにしてもリーダーに成長したシーザーが立派である。現代の世界の指導者たちもそうなって欲しい。
2014/09/24(水)(五十嵐太郎)