artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

チューリヒ美術館展─印象派からシュルレアリスムまで

会期:2014/09/25~2014/12/15

国立新美術館[東京都]

今年は日本とスイスの国交樹立150周年を記念してスイス関係の展覧会が次々と開かれてきたが、「チューリヒ美術館展」はその集大成ともいうべきもの。スイスはドイツ、フランス、イタリアという大国に囲まれてるせいか、文化も国民性も一筋縄ではいかない。芸術家も、今年紹介されたバルテュス、ヴァロットン、ホドラーと異色の画家たちを輩出しているし、小国とはいえ、あなどれない国なのだ。同展の目玉は、モネの大作《睡蓮の池、夕暮れ》で、ほかにもドガ、セザンヌらも出ているから、上のフロアでやってる「オルセー美術館展」と合わせて見るといいかも。でもなんといっても興味深いのは、数点ずつ出ているセガンティーニ、ホドラー、ヴァロットンらスイスの画家たちだ。セガンティーニはイタリア生まれだが、アルプスの風景を幻想的に描き出したことで知られる。その明るい描写は印象派に近いが、細かいタッチを重ねていく描法は点描派ともいえるし、神秘主義的な物語性を感じさせる点では象徴主義ともいえる。そのとらえどころのなさがなんともいえない魅力だ。ホドラーはもう国立西洋美術館で回顧展が始まってるはずだが、ちょっと心を病んでいるんじゃないかってくらい左右対称の画面に固執した画家で、6点も出品している。回顧展のほうも楽しみだ。先月まで三菱一号館でやっていたヴァロットンも4点あって、淫靡な雰囲気の漂う室内画や女性ヌード、大胆な構図の風景画などよく似た作品が出ているが、海景を左右対称に描いた《日没、ヴィレルヴィル》などはホドラーそっくり。ほかにもクレーやジャコメッティなどスイス出身者が出ていて、独自の美学を開陳している。

2014/09/24(水)(村田真)

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村越としや「火の粉は風に舞い上がる」

会期:2014/09/20~2014/11/03

武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]

僕以外にも何人かの論者が指摘していることだが、村越としやの写真は「3.11」以後に明らかに変わった。むろん、彼が故郷の福島県を撮り続けているのは周知の事実なので、写真を見る時に震災と原発の影を重ね合わせないわけにはいかないということは大きい。だが、それ以上に被写体となる風景に対峙する彼の姿勢に、大きな変化があったのではないだろうか。写真の骨格が太く、強靭になり、画面全体に緊張感がみなぎるようになった。繊細だが、どこかひ弱な印象もあった以前の写真と比較すると、その堂々たるたたずまいには、見る者に威儀を正させるような力が備わってきているように思う。今回の展示は、村越にとっては最初の美術館での個展で、それだけ力の入り方が違ったのではないだろうか。大小の写真をちりばめつつ、奥へ奥へと視線を誘っていく会場のインスタレーションもよく工夫されていた。
疑問に思ったのは、同時に刊行された同名の写真集(リブロアルテとSpooky CoCoon factoryの共同出版)におさめられている「人」のイメージを、展示ではなぜ全部抜いてしまったのかということだ。これまで「風景」の写真家として村越が取り組んできたのは、自らの「心象風景」と、眼前の、どちらかといえば即物的な日常的な眺めとをすりあわせつつ、モノクロームの写真に置き換えていく営みであり、それはほぼ達成できたのではないかと思う。その調和を壊しかねない「人」の姿を取り入れていくことは、たしかに冒険ではあるが、新たな方向性を指し示してくれるものとなるはずだった。もし会場構成上の理由で「人」の写真を抜いたのだとしたら、やや残念ではある。風景における人為的要素を抽出していくことが、彼の大きなテーマになっていく予感があるからだ。

2014/09/25(木)(飯沢耕太郎)

ベアト・ストロイリ「Living Room」

会期:2014/09/03~2014/10/08

Yumiko Chiba Associates viewing room Shinjuku[東京都]

ベアト・ストロイリは1957年、スイス生まれの現代美術アーティスト。1980年代から、都市の路上の群衆から、特定の人物を望遠レンズで抜き出して撮影する作品を発表してきた。初期においては、今回のYumiko Chiba Associates viewing room Shinjuku で参考展示されていた作品のように、小型カメラを用いてモノクロームでプリントしていたが、次第にスライドやヴィデオのプロジェクションに移行していく。また、巨大なビルボードのような大型プリントのインスタレーションを試みるなど、意欲的に作品の「見せ方」を模索していった。被写体となる人物たちの出自も欧米諸国だけではなく、アジアなど非西欧諸国の都市にまで広がっている。
今回の展示でも「見せ方」に工夫を凝らしている。タイトルが「Living Room」なのは、壁面に「壁紙」を貼り巡らして、その上に作品を並べているからである。「壁紙」の素材となっているのもストロイリの写真だが、作品より断片的、パターン的に処理されていて、「始まりも終わりも」なく、「潜在的に無限であって、そこには中心も端もない」。いわば、都市風景のひな形とでもいうべきイメージを背景として、都市から切り出されてきた人物を鑑賞するという仕掛けなのだ。
インスタレーションはとても洗練されており、顔のクローズアップと色面とを組み合わせた新作のクオリティも高いのだが、90年代から同工異曲の作品をずっと見てきたので、やや新鮮味には欠ける。ストロイリもそろそろ、「見せ方」のヴァリエーションに頼るだけではなく、次のステージを準備していく時期に来ているのではないだろうか。

2014/09/25(木)(飯沢耕太郎)

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(ジェームズ・ガン監督)は、凸凹メンバーによるハチャメチャな宇宙活劇の21世紀版である。懐メロも楽しいし、最後の空中戦も迫力だった。動きはまだ記号的なものが残るが、アライグマや植物など、非人間のキャラをアニメ的に抽象化することなく、人間と並べて遜色ない存在感を持たせられることに感心させられた。こうした技術が進化していくと、今度は人間の番となり、俳優が不要となるのだろうか。

2014/09/25(木)(五十嵐太郎)

日本建築学会建築文化週間2014カルチベートトーク

会期:2014/09/26

建築書店[東京都]

建築会館の書店にて、濃厚な資料集でもある『日本の名建築167日本建築学会賞受賞建築作品集1950-2013』本について、監修した古谷誠章、寄稿した倉方俊輔と五十嵐、編集の大森晃彦が、トークイベント「学会賞とはなにか─日本建築学会賞受賞建築作品集1950-2013の刊行記念」を行う。日本建築学会賞(作品)は戦後すぐに創設され、これまでに多くの作品が受賞し、その審査経緯、選評、受賞の言葉などが60年以上にわたって蓄積されているが、それらを総覧できる初の書籍である。各執筆者は時代の変遷やテーマ別の切り口から、学会賞を読みとくが、アーカイブゆえに、ここから議論できる内容は将来さらに発掘可能だろう。建築会館の書店は親密なスケール感で、よい雰囲気だった。やはり学会賞(作品)の審査を通じた膨大かつ多角的な議論が、非公開なのはもったいない。公開審査がすぐに無理だとしても、数十年後に全内容が公開されるなどの措置はできないものか。後世の歴史家に委ねて。

2014/09/26(金)(五十嵐太郎)

2014年10月15日号の
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