artscapeレビュー
2014年10月15日号のレビュー/プレビュー
ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい
会期:2014/09/13~2014/11/09
東京ステーションギャラリー[東京都]
もう20年以上も前のこと、電通総研の知人に誘われて、たしか東銀座にあった藤岡和賀夫氏の事務所に遊びに行ったことがある。知人に「ディスカバー・ジャパンを仕掛けた人」と教えられたが、事務所は資料がきちんと整理されていてあまり仕事の匂いがしなかった。その日はさまざまなメディアの編集者たちが集ったので、きっとサロンのような場なのだろう、一発当てると20年後もこんなに優雅にすごせるのかとノンキに思ったものだ。その藤岡氏がプロデュースした「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを、いまいちど「ディスカバー」しようという展覧会。展示は、藤岡氏の手がけたゼロックスのテレビCM「モーレツからビューティフルへ」に始まり、「ディスカバー・ジャパン」の新聞広告、テレビCM、国鉄のポスター、『アンアン』の旅行記事、時刻表、周遊券、駅に置かれたスタンプ、駅弁の包み紙、そしてテレビ番組「遠くへ行きたい」まで、実に多岐にわたっている。これを見ると、ぼくがどれだけこの「ディスカバー・ジャパン」にお世話になったか、というより乗せられたかがよくわかる。70年代初め高校生だったぼくは、休みごとに周遊券を使って東北、北陸、九州などを旅していたが、これは明らかにテレビ「遠くへ行きたい」に感化されてのことであり、CMの国鉄のキャンペーンに乗せられたものだった(カタログでも言及されてるが、「遠くへ行きたい」という番組自体が国鉄のCMだったともいえる)。それとは別に、高校は図らずもデザイン科を選んでしまったために、参考資料として創刊されたばかりの『アンアン』をいとこの女子大生から譲り受け、そのなかの旅の記事にも多いに刺激を受けていた。ということを、この展覧会を見ていまさらながら認識した次第。そっか、ぼくの人生の何分の一かは(少なくとも10パーセントは)藤岡和賀夫氏が決定づけたのかもしれない。
2014/09/28(日)(村田真)
マリリンとアインシュタイン─神話的イコンに捧げる讃歌
会期:2014/06/07~2014/10/05
インターメディアテク[東京都]
アメリカ大陸を横断するグレイハウンド・バスの原寸大プリント、エルヴィス・プレスリーのサイン入り絵葉書、ジョー・ディマジオが銀座ミキモトで購入してマリリン・モンローに贈ったという真珠のネックレス、レーニン像に毛沢東像、安斎重男が撮ったウォーホルのポートレート、なぜかスバル360、そして赤瀬川原平の「大日本零円札」……これらの最大公約数はなにか? などと考えなくてもおもしろい展覧会だと思う。
2014/09/28(日)(村田真)
東京オリンピックと新幹線
会期:2014/09/30~2014/11/16
江戸東京博物館[東京都]
いま東京オリンピックと新幹線の開通を覚えているのは、確実に半世紀以上生きてきた人たちだ。もちろん東京オリンピックといえば2020ではなく1964だし、新幹線といえばカワセミでもカモノハシでもなく、あの団子っ鼻をイメージするはず。そんな世代の人たちにとって(ぼくだ)この展覧会は垂涎ものにちがいない。展示は戦後のカストリ雑誌に始まり、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品が紹介され、従来の特急つばめ・こだまが出てきて、いよいよ新幹線の登場となる。こだま以上に速い、究極のひかり。この先もっと速い列車が出てきたらなんて名づけるんだろう、と子供心にも心配したものだ(まさか「のぞみ」にワープするとはね)。新幹線の工事と開通を伝えるパンフレットや新聞記事の書体に時代がにじみ出ている。そして東京オリンピック。こちらもパンフレットや売り出されたばかりのカラーテレビ、選手のウェア(とくに女子バレーボールのブルマ)などが時代を感じさせるが、亀倉雄策デザインのポスターはいま見ても新しい。ところでオリンピックには芸術展示がつきものだが、東京ではどんな展覧会が開かれたのか知らなかったし、美術史にも載ってない。それもそのはず「日本古美術展」(東博)と「近代日本の名作展」(東近)だもんね。ハイレッド・センターの首都圏清掃整理促進運動のほうが歴史に残るでしょ。
2014/09/29(月)(村田真)
5人の写真
会期:2014/09/26~2014/11/08
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
石原悦郎がツァイト・フォト・サロンを東京・日本橋にオープンしたのは1978年。日本で最初の、「オリジナル・プリント」を専門に扱う商業ギャラリーだった。当初はアンリ・カルティエ=ブレッソン、アンドレ・ケルテス、マン・レイなど、ヨーロッパの写真家中心のラインアップだったが、その後、日本の写真家たちを積極的に取り上げるようになる。1980年代以降のツァイト・フォト・サロンでの展示が、日本現代写真を牽引していったことは間違いないだろう。2002年には京橋のブリヂストン美術館裏に移転し、展示スペースを拡大して活動を継続した。
そのツァイト・フォト・サロンが、同じ京橋でももっと銀座寄りに移転することになり、「リニューアルオープン展第1回」として、「5人の写真」展が開催された。「5人」というのは北井一夫、オノデラユキ、鷹野隆大、楢橋朝子、浦上有紀で、ここ数年、同ギャラリーで個展を開催してきた写真家たちの中から選ばれている。1940年代生まれの北井から、70年代生まれの浦上まで、年齢も作風もバラバラなのが、逆にツァイト・フォト・サロンの再出発にふさわしい気もする。今回はどちらかといえば「お披露目」の意味合いが強い展示だったが、楢橋の富士山をテーマにした新作(「Towards the Mountain」2013年)や、2013年に個展デビューした新進作家、浦上のインドのシリーズ(「Spiral of Impulse」2014年)など、今後を期待させる作品が並んでいた。
スペース自体は前よりも小さくなったが、立地条件はずっとよくなっている。「リニューアルオープン展」終了後の展覧会で、若手から中堅、ベテランまで、力作、意欲作をたくさん見たいものだ。
2014/09/30(火)(飯沢耕太郎)
プレビュー:岡本光博「マックロポップ」
会期:2014/10/25~2014/11/22
eitoeiko[東京都]
2012年に京都にオープンした現代美術ギャラリーKUNST ARZTの主宰でも知られるアーティスト 岡本光博の個展が東京で開催される。キュレーションは青森県立美術館学芸員 工藤健志氏。ごく普通の生活のなかで抱く疑問を徹底的に追求し、社会通念や既成概念に軽快かつ鋭く切り込む岡本作品。一貫した表現の姿勢にもファンが多い。東京での個展開催は実に21年ぶりという今展には、これまで発表された作品の数々に加えて未発表新作も展示されるというから期待が膨らむ。展覧会初日(10/25)に開催される関連ワークショップ「岡本光博の作品「まんげ鏡」をつくろう!」もなにやら「過激な匂い」がして気になる。
2014/10/06(月)(酒井千穂)