artscapeレビュー
2015年10月01日号のレビュー/プレビュー
ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展
会期:2015/09/19~2015/11/23
兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F[兵庫県]
近年、日本の美術館では、マンガやアニメをテーマにした企画展が増えている。その理由は、日本の文化シーンにおいて、マンガ、アニメの存在が無視し難いほど巨大になったことが挙げられる。また、これまで美術館に来なかった客層を取り込む、美術館の動員実績を上積みするためにマンガ、アニメを利用するなどの思惑もあるだろう。その理由がいずれにせよ、これまでのマンガ、アニメ展は人気作家・作品の個展がほとんどだった。その点で本展は、1989年(手塚治虫の没年)以降の日本のマンガ、アニメ、ゲーム史を概観している点で画期的だ。展示構成はマンガが少なめで、アニメとゲームに多くを割いていた。特にゲームにここまで注力した企画は極めてレアで、それだけでも開催の価値が感じられる。この神戸展は先に行われた東京展よりも会場が狭かったため、縮小版になってしまったのが残念だ。それでも本展が関西で行われた事実は、今後重要な意味を持つだろう。
2015/09/18(金)(小吹隆文)
デジタル×ファッション──二進法からアンリアレイジ、ソマルタまで
会期:2015/07/11~2015/10/06
神戸ファッション美術館[兵庫県]
デジタルをテーマに、ファッション・ブランド、アンリアレイジとソマルタの作品を紹介する展覧会。アンリアレイジは「神は細部に宿る」というコンセプトのもと、デザイナー、森永邦彦が2003年に設立したブランドである。本展では2009年以降、近年の代表的な作品が出品されている。一言でいえば、率直で明快、曖昧さがない。シーズン・テーマをそのまま衣服に置き換えたかのような作品が並ぶ。例えば2009年S/Sの《マル
サンカク シカク》では、球体や三角錐、立方体に着せられた衣服があまりにも印象的である。レーザーカットの技術を使った2013年S/Sの《BONE》は、衣服を建築のような構造物と捉えその骨組みを蛍光色に浮かび上がらせた作品。2013-2014年A/Wの《COLOR》のように、新しい技術をつかった実験的な作品も目立つ。確かにハイテクを使っているには違いないのだが、ことさら実験的な作品に見えるのはその技術の本質を突き詰めた結果としていままでにない衣服が出来上がったからではないだろうか。一方、ソマルタは、2006年にデザイナー、廣川玉枝が、ファッション、グラフィックデザイン、サウンドクリエイト、ビジュアルディレクションを手掛けるソマデザイン社の設立と同時にファッション・プロジェクトとして立ち上げたブランドである。「身体における衣服の可能性」というコンセプトでつくられた無縫製ニットによる《Skin》シリーズは、あのレディ・ガガがPVで着用したことでも知られる。本展ではその《Skin》シリーズを中心に、トヨタとのコラボレーション《LEXUS DRESS》や3Dプリンターで製作した《Asura》のマスクとボディが出品されている。《Skin》シリーズのレースの透かし模様は、それが身体の上で正確にかたちを描くように緻密にプログラミングされる。クリスタル・ガラスをふんだんに散りばめた、自然や植物がモチーフの繊細なレースという女性的でしかない要素でありながらどこか硬質で冷たい印象を受けるのは、デジタルを経た完成度の高さからであろう。そして、「Skin」は人間の皮膚だけではなく、車や椅子といったプロダクツの表面でもありうるのである。
本展の主役の二人のデザイナーは、日本人ファッション・デザイナーの新世代といわれる世代である。いうまでもなく、前世代は1982年にパリ・コレクションで華々しいデビューを飾って「黒の衝撃」と呼ばれた世代。なかでも、アンリアレイジの森永はコム・デ・ギャルソンの川久保玲を、ソマルタの廣川は三宅一生の影響を色濃く受けていることは明らかだ。そのうえで、それぞれに前世代からの影響をよりシンプルで厳格な表現へと昇華してきた。近年、日本人ファッション・デザイナーの新世代の潮流に注目する展覧会はいくつか開催されてきたが、本展では世代から世代への継承と発展を強く意識せずにはいられなかった。[平光睦子]
2015/09/19(土)(SYNK)
プレビュー:鉄道芸術祭 vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車~alternative train~
会期:2015/10/24~2015/12/26
アートエリアB1[大阪府]
京阪電車「なにわ橋駅」構内という独特のロケーションを生かし、鉄道と芸術をテーマにした「鉄道芸術祭」を毎年開催しているアートエリアB1。今年は写真家のホンマタカシをプロデューサーに迎え、駅、ホーム、車両などの鉄道環境や、京阪電車沿線を独自の視点でリサーチした作品展示を行う。出品作家はホンマの他、黒田益朗(グラフィックデザイナー)、小山友也(アーティスト)、NAZE(アーティスト)、PUGMENT(ファッションブランド)、蓮沼執太(音楽家)、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ(アーティスト)の計7組。ホンマは6月から断続的に大阪に滞在し、京阪沿線でカメラオブスキュラの手法で作品を制作、それらのうち光善寺駅のカメラオブスキュラを限定公開する他、小津安二郎へのオマージュ、リュミエール兄弟の作品上映などを行う。他のゲストアーティストたちは、写真、模型、映像、ドローイング、音響作品を出品する予定だ。
2015/09/20(日)(小吹隆文)
プレビュー:奈良・町家の芸術祭 はならぁと2015
会期:2015/10/10~2015/11/03
《はならぁと ぷらす》五條新町、生駒宝山寺参道 《はならぁと こあ》宇陀松山、八木札の辻、今井町[奈良県]
古都・奈良の古い町家が残る地区を舞台に、毎年秋に行われているアートイベント。前回からアートディレクターに就任した山中俊広は、展示をキュレーターによる企画展を主体とする《こあ》と、一般参加作家の作品展《ぷらす》の2系統に分離するなど、数々の変更を実施した。2年目の今年は、その真価が問われる重要な回となる。また今年は、《こあ》のキュレーターを、美術、音楽、演劇、デザインという異なる4ジャンルの専門家に任せており、例年以上に多彩な展開が期待される。《こあ》の3エリアを結ぶシャトルバスを毎日2往復運行し、交通の便が悪い地域へのサービスを拡充するのも嬉しいところだ。出展作家数は、先にスタートする《ぷらす》が、生駒宝山寺参道エリア13組+五條新町エリア6組、後発の《こあ》が、宇陀松山エリア22組(キュレーター2名)+八木札ノ辻エリア23組(キュレーター1名)+今井町エリア20組(キュレーター1名)である。
各会期:
《はならぁと ぷらす》2015/10/10~2015/10/18
《はならぁと こあ》2015/10/24~2015/11/03
2015/09/20(日)(小吹隆文)
戦後70年──昭和の戦争と八王子
会期:2015/07/22~2015/09/30
八王子市郷土資料館[東京都]
第二次世界大戦終結から70年になる今年、各所で戦争と暮らしをテーマにした展覧会が開催されているが、そのなかでも本展は充実した企画のひとつではないだろうか。郷土資料館の展示らしく、主題は地域の暮らしと戦争との関わり。それだけなら各地の郷土博物館でよく見られる企画であるが、本展で扱われている時代は戦時中だけではなく、昭和初めの満州事変から戦後復興期まで約30年の長期にわたり、また出品資料は役所や公的な組織が制作・配布したチラシ、ポスター、町内会の通達、さまざまな代用品や戦時の衣服・軍服、学校生活や疎開、浅川地下壕につくられた中島飛行機の工場、八王子空襲等々と多岐にわたると同時に数も膨大で、地域の歴史と戦争との関係を資料を通じて丹念に追う構成になっている。
多彩な資料のなかでとくに眼を惹くのはチラシやポスターなどの文書類。昭和12年に始まった国民精神総動員運動では国民に対して戦時体制への協力が呼びかけられるようになった。ただ、事態はすぐに逼迫したわけではない。昭和13年頃に八王子生肉商組合が制作した国民精神総動員運動ポスターには「肉食普及/健康報国」の文言が掲げられており、同時期に東京鉄道局が制作したパンフレットは「春光を浴びて野外へ」というコピーで人々をハイキングへと誘い、まだ人々の生活には余裕が感じられるものが多い。しかし昭和16年に太平洋戦争が始まると状況は大きく変わり、戦争遂行のための貯蓄の推奨や国債の購入、資源節約、金属などの資源回収を求める文書が多数現われる。綿の供出(火薬の原料)、かぼちゃの種の回収(食料)、茶ガラの回収(軍馬の飼料)、犬の献納(犬の特別攻撃隊をつくると書かれている)、子どもたちにはドングリの採集(タンニンやアルコールの原料、飼料や食料として)を呼びかけるチラシなどは、資源を持たない国が無謀な総力戦に突入していく様が伝わる資料だ。空襲への備えや毒ガス攻撃を想定した防毒マスクや対処法を記した冊子類も興味深い。焼夷弾攻撃への対処も想定されていたが、昭和20年8月2日の八王子空襲では市民1人あたり10個の焼夷弾が落とされたといわれ、現実には何の役にも立たなかったという。
もうひとつ興味深い資料は、昭和12年8月に日中戦争の派遣部隊に招集されたひとりの青年教員の記録である。家族で写した写真、青年が親に宛てたはがき、学校の教え子たちからの手紙、青年の戦死を報じる新聞の切り抜きや死亡通告書、軍隊手帖やトランクなどの遺品類。所属していた部隊を主題に制作された歌舞伎舞台のパンフレットや学芸会の台本まで、青年の父親が集め大切に保管してきた資料は戦争の現実を淡々と、しかしリアルなものとして私たちに伝えてくれる。歴史を知ること、歴史に学ぶことの大切さを印象づけられる展示だ。[新川徳彦]
2015/09/21(月)(SYNK)