artscapeレビュー

2017年06月01日号のレビュー/プレビュー

HANDAI ロボットの世界──形・動きからコミュニケーション そしてココロの創生へ──

会期:2017/04/26~2017/08/05

大阪大学総合学術博物館[大阪府]

大阪大学では、とりわけ人型ロボット(ヒューマノイド)や人間酷似型ロボット(アンドロイド)に関わるロボット研究が盛ん。石黒浩教授による「マツコロイド」などは最近よく知られるところだろう。本展は、人と共生を目指した最先端のロボットを紹介するもの。石黒氏が自らの子供をモデルにしたアンドロイドの初期モデルもあり、制作段階の様子を垣間見ることもできる。目玉作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチのアンドロイド(NPO法人ダ・ヴィンチミュージアムネットワーク/浅田稔教授)である。ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館のスタッフや俳優などと綿密に打ち合わせ、本人の自画像や資料を参照しながら、老年時代のダ・ヴィンチの外観を作り上げたという。実見すると、そのスーパーリアルな姿にびっくりする。肌の質感、滑らかな動作、まばたきや顔の表情の変化などすべて、生きている人間そっくり。今回ダ・ヴィンチを選んだ理由は、科学と技術と芸術を融合させたパイオニアだからだそうだ。万能の才人を現代に蘇らせることで、人間とロボットの関係を考えるためのシンボルとなるよう期待されている。確かに、元祖デザイナーともいえるダ・ヴィンチがもし現代に生きていたならば、工学のみならず脳科学や心理の働き等人間の理解、アート、諸哲学に関わるロボット学に没頭していたかもしれない。[竹内有子]

2017/05/06(土)(SYNK)

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「人によりそう~中山太陽堂にみる販売促進・営業活動~」展

会期:2017/04/01~2017/05/31

クラブコスメチックス文化資料室[大阪府]

1903年に大阪で創業した「中山太陽堂(現:(株)クラブコスメチックス)」における、明治末から昭和初期にかけての営業活動を同時代資料からたどる展覧会。展示は、①「中山太陽堂の活動と創業者・中山太一の思い」、②「ご愛用者様向け 販売促進・営業活動」、③「代理店向け 販売促進・営業活動」の3部立てになっている。同社は、博覧会を大きな足掛かりとして国内外で先駆的な活動を展開する。1906年に最初の製品「クラブ洗粉」(洗顔料)を発売以来、国内では全国製産品博覧会で金牌を受賞、1910年の日英博覧会(開催地:ロンドン)においても一等賞牌を受領した。本展の前半では、各博覧会の会場図、特設館や展示風景の写真、雑誌への挟み込み広告、整容美粧の様子等を展示。後半では、大正期から顧客と代理店向けに行なわれた懸賞やイベント、キャンペーンを示す写真、ちらしとポスター、絵看板などのほか、販売経路を定めた表と各契約に準じた化粧品の現品が展観された。総合化粧品メーカーが、大正期の啓蒙的指標であった「文化的生活」を営むための諸活動に携わり、さらには近代的な販促戦略を創出していった過程を見ることができる。今回で14回目となる企画展、企業ミュージアムの意欲的な文化活動と、年毎に趣向を凝らしたテーマ設定に今後も期待したい。[竹内有子]

2017/05/06(土)(SYNK)

煉瓦色の記憶~100年前の原田の森

会期:2017/04/28~2017/07/30

神戸文学館[兵庫県]

神戸文学館の建築は、関西学院の創設地に建設されたブランチ・メモリアル・チャペルを復元したもの。英国人M・ウィグノールの設計により、1904年(明治37年)に竣工した。神戸市に現存する最古の煉瓦造り平屋建て教会建築である。大戦中の爆撃で建物の屋根が抜け落ちて戦後に一旦修復、1992年になってチャペルの尖塔が再建された。その2年後には阪神淡路大震災に見舞われたが、これを無事に乗り越えた。このとき改修設計を担当したのが、一粒社ヴォーリズ建築事務所。もともと関西学院原田校の多くの校舎は、W・M・ヴォーリズに設計されていたから、縁の深い仕事であったろう。さて本展は、大正期から昭和初期にかけて、キャンパスと周辺の学生街が発展していく様子を当時の写真と学院を卒業した作家たちの資料から探るもの。初期英国ゴシック様式風の木造梁の高い天井から醸し出される独特な建築空間を体感しながら、近隣地域の今昔と学生たちの青春物語に思いを馳せた。ちなみに今、原田の森キャンパス跡地は、神戸市立王子動物園や市立プール、兵庫県立美術館分館と横尾忠則現代美術館が隣接する文化ゾーンとなっている。[竹内有子]

2017/05/07(日)(SYNK)

新宮晋の宇宙船

会期:2017/03/18~2017/05/07

兵庫県立美術館[兵庫県]

風や水などの自然のエネルギーを利用して動く造形作品を一貫して作り続けてきた作家、新宮晋(1937- 、大阪生まれ)の大規模な展覧会が開かれた。新宮といえば、戸外に設置されるサイトスペシフィックな作品が思い浮かぶ。しかし今回は、新作を中心とした18点が、「宇宙船」と見立てられた会場空間に展示された。安藤忠雄によるコンクリート建築のような人工的な空間に設置されるということは、作家にとってはある意味、挑戦であったろう。蓋をあけてどうであったかというと、館内の展示には意外な副産物があった。「星」や「雲」など自然を想起する詩的なタイトルが付く作品群、その風によって起こされる優雅な動きは、時にコンクリートの壁に影を落としてはゆらめく。流れる水力で動く金属作品《小さな惑星》は、照明を落とした空間に静かな水音とステンレスに反射された光がきらめき、幻想的な雰囲気を醸し出す。また自然の光が差し込み緑の見える中庭にも、作品が展示されて好対照であった。展示室内を巡り驚くのは、金属のように無機質な材料で作られた作品なのに、それぞれの動きがなんと有機的に感じられることか。新宮の作品に通底する、自然に対する驚嘆や自然の法則を表象する真摯な心持が伝わるようだ。[竹内有子]

2017/05/07(日)(SYNK)

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ポスターに描かれた昭和~ 高橋春人の仕事~

会期:2017/03/11~2017/05/07

昭和館[東京都]

デザインに携わる者で、亀倉雄策がデザインした1964年の東京オリンピックポスターを知らない者はいないだろう。しかし、同年11月、東京オリンピック閉幕後に開催されたパラリンピックのデザインワークについて知っている者はどれほどいるだろうか。この年のパラリンピックは、1960年に開催されたローマ大会に続く第2回目の国際大会で、このときはじめて「Paraplegia(対麻痺)」と「Olympic」を組み合わせた「Paralympic」という愛称が用いられた。この大会の企画当初からポスターを含むさまざまなデザインの仕事に携わったのが、戦中から戦後にかけて、主として公共広告の分野で仕事をしたデザイナー 髙橋春人(1914~1998)だ。昭和館は2011年に遺族から肉筆原画、ポスター等約160点の寄贈を受けている。本展はそれらの作品に関連資料を加えて、戦中から戦後昭和40年代に至る髙橋の足跡をたどる企画だ。ポスター作品の中でもとくに印象に残るのは「赤十字募金・共同募金」(のち、赤い羽根運動)のもの。1949年(昭和24年)に在京ポスター作家10人によるコンペが実施され、髙橋の作品が採用された。髙橋は以来30年にわたって同ポスターを手がけることになる。力強い描き文字、イラストや写真の大胆な配置には、戦前・戦中からの公共プロパガンダポスター(アドバタイズメントではない)の伝統がうかがわれる。とはいえ、表現の様式はクライアントに応じて多様で、髙橋自身が公共の広報物のあるべき姿として述べているように、作家性は意図的に抑えられているようだ(本展図録、6頁参照)。日本のグラフィック・デザイン史のなかで、こうした公共広告の仕事に焦点が当てられることはなかなかない。本展がデザイン関連の施設ではない会場で開催されたことからも、デザイン史における関心からのこの分野に対する距離を感じる。[新川徳彦]

2017/05/07(日)(SYNK)

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2017年06月01日号の
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