artscapeレビュー

2019年07月15日号のレビュー/プレビュー

Archives: Bauhaus 展

会期:2019/06/28~2019/09/23

無印良品 銀座 6F ATELIER MUJI GINZA Gallery2[東京都]

2019年はバウハウス創立100周年にあたる節目の年である。これを記念する展覧会やイベントなどが昨年から各所で開かれており、本展もそのひとつにあたる。バウハウスというと、どうしてもヴァルター・グロピウスをはじめ、ミース・ファン・デル・ローエ、マルセル・ブロイヤーといった建築家らがその教師陣として思い浮かぶが、本展で主に取り上げられたのは同校の金属工房で優れた才能を発揮したという女性デザイナー、マリアンネ・ブラントだ。正直、本展を観るまで彼女の存在を知らなかったが、円形や半球形を基調とした金属製灰皿などはとても端正で美しく、バウハウスの血を受け継ぐデザインであると感じた。また同じく同校で学び、教鞭を執ったデザイナー、ウィルヘルム・ワーゲンフェルドのポットやカップなどのガラス製品も展示されており、こちらも端正で美しい造形をしていた。これらはバウハウスが残した工業製品のごく一端に過ぎないだろうが、それでも20世紀初めに工業デザインの基礎がドイツで築かれたことを十分に物語っていた。

本展の見どころのもうひとつは、マリアンネ・ブラントが残した写真である。校内のどこかで撮影されたと思われる写真には学生たちの姿も写っており、当時の学校風景をふわりと伝える。そして魚眼レンズで撮ったような凝ったアングルからも、彼女のセンスが垣間見られた。バウハウスが実践した総合的造形教育の賜物がまさにここにあった。

展示風景
© ATELIER MUJI GINZA Gallery2 「Archive: Bauhaus展」

さて、本展を主催するのは無印良品である。バウハウスの作品や製品に混じって、無印良品の製品も併せて展示されていた。例えばマルセル・ブロイヤーのカンチレバーの椅子と無印良品の椅子など、構造や形状がよく似ているもの同士を並べた展示もあれば、素材、形状、機能をシンプルに突き詰めたという点で似ている生活道具の展示もあった。互いに学校と企業という違いはあるが、つまりそこには「無印良品は現代のバウハウス(の精神を受け継いだ企業)である」というメッセージがあるように感じた。

展示風景
© ATELIER MUJI GINZA Gallery2 「Archive: Bauhaus展」


公式サイト:https://www.muji.com/jp/ateliermuji/exhibition/g2_190429/

2019/07/05(杉江あこ)

カンディダ・ヘーファー「The Large and The Small─The Still and The Moving 」

会期:2019/06/08~2019/08/03

ユカ・ツルノ・ギャラリー[東京都]

デュッセルドルフの芸術アカデミーでトーマス・ルフ、アンドレアス・グルスキーらとともにベッヒャー夫妻のもとに学んだ、いわゆるベッヒャー・シューレのひとり。今回は図書館、劇場、そして近作の抽象的な写真シリーズの展示。

図書館シリーズはまず被写体そのものに驚く。宮殿のように絢爛豪華な装飾が施されていたり、丸天井が美しい弧を描くヨーロッパの図書館は、それだけでも見る欲望を刺激してやまないが、それをヘーファーは、何千冊とある本の背表紙の文字まで判読できるほどではないものの、視覚の容量を超えた情報をダダ盛りにして見る者に差し出してくるのだ。ある図書館は天井に丸い天井画が描かれ、それを囲むようにレリーフ状の装飾が施されているが、ある部分は本物のレリーフで、別の部分はレリーフに見せかけただまし絵だったりする。それらを1枚の平面に定着させたこの写真は、二重のだまし絵ともいえる。これは欲しくなるが、サイズがでかすぎる。でも小さくしたら解像度が落ちて意味がなくなる。ま、どっちにしろ買えないけどね。

2019/07/05(金)(村田真)

坂本夏子個展「迷いの尺度─シグナルたちの星屑に輪郭をさがして」

会期:2019/06/08~2019/07/06

ANOMALY[東京都]

坂本夏子といえば、河原温の《浴室》シリーズみたいな(ぜんぜん違うけど)タイル貼りの部屋の中に人物がたたずむ絵しか知らなかったけど、おもしろい視点を持った作家だ。今回は絵画だけでなく、スケッチや立体も展示している。絵画の方は画面の一部または全部が網目やモザイクや格子模様で覆われていて、どこか上空から眺めた地上の姿にも見え、アボリジニの世界観をマッピングしたドリーミング絵画を思わせる。

興味深いのは《ペインティング・ボックス》という立体で、商品の箱の表面を彩色し、蓋を開けて中を見られるようにしたオブジェ。内部には紙細工や粘土細工、プラスチックの小物などが配置され、ジョセフ・コーネルの「箱」を彷彿させるが、鑑賞方法はまったく異なる。《ペインティング・ボックス》の場合、内部を見るには蓋を開けるという行為を伴うこと、そして卓上に置かれた箱の中身を、コーネルのように水平の視線ではなく、上から見下ろすということ。だとすれば、中身も俯瞰されるように配置されているはずで、それは構成というよりマッピングに近い作業ではないかと思うのだ。



Natsuko Sakamoto Signals, mapping 2019
Oil on canvas, H194xW130.3cm
[© Natsuko Sakamoto, ANOMALY, Photo by Ichiro Mishima]

2019/07/05(金)(村田真)

ジョシュ・スパーリング「Summertime」

会期:2019/07/03~2019/08/10

ペロタン東京[東京都]

4つの壁面に、パステルカラーに塗り分けた弧や波形のキャンバスを適度の余裕をもって敷き詰め、太い角柱の3面にも波形のキャンバスを貼り付けている。見た目は「のたうつミミズ」だが、美学的に言えば、シェイプト・キャンバスをポップ化したパロディとも言えるし、壁面を1枚のキャンバスに見立てたレリーフ画と見ることもできる。

まずグラフィックデザインのソフトウェアを使って形態を決め、合板をレリーフ状にくり抜き、キャンバス布を貼り、中間色の色彩を施すという手の込んだ作業を経るというだけあって、仕上がりは完璧。ただの思いつきではなく、ちゃんと絵画制作の手続きを踏まえているのだ。奥の部屋には彩色した円形をベースに正方形、三角形、弧をはめ込んだ複合パネルの絵画が6点。表面にわずかに凹凸があり、70年代のステラの作品や、エットーレ・ソットサスのデザインを思い出す。いずれも美術史を参照し、相対化し、骨抜きにして工芸化した作品と言えばいいか。でも、これって絵画なのか?


会場風景
Photograph : Kei Okano Courtesy of Josh Sperling and Perrotin


会場風景
Photograph : Kei Okano Courtesy of Josh Sperling and Perrotin

2019/07/06(土)(村田真)

カタログ&ブックス│2019年7月

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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ART TRACE PRESS 05

責任編集:松浦寿夫、林道郎
発行:ART TRACE
発行日:2019年6月28日
定価:2,300円(税抜)
サイズ:A5判、291ページ

特集「アフェクト・セオリー」
宇野邦一氏、林道郎、松浦寿夫による座談会収録の他、松井勝正氏によるロバート・スミッソン論、荒川徹氏によるゴッホ論、林道郎によるアフェクト理論についての補足的論考を掲載。

欲望の主体 ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義

著者:ジュディス・バトラー
翻訳:大河内泰樹、岡崎佑香、岡崎龍、野尻英一
発行:堀之内出版
発行日:2019年7月10日
定価:4,000円(税抜)
サイズ:四六判、492ページ

ジュディス・バトラーについては、すでに多くの著作の訳書があり、日本でも受容が進んでいる。しかし、彼女の思想的出発点となったヘーゲル研究については十分な理解が進んでいるとは言えない。バトラーのフェミニズム、クィア理論、さらには政治的主張を理解する上でも、その基礎となっている彼女のヘーゲル理解、そしてそれに基づくフランス二〇世紀哲学についての理解を示した本著の邦訳刊行は、日本における哲学、フェミニズム、政治思想における議論に大きく貢献することになるだろう。

シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略

著者:洞田貫晋一朗
装丁:井上新八
発行:翔泳社
発行日:2019年6月12日
定価:1,600円(税抜)
サイズ:四六判、200ページ

森美術館は2018年美術展覧会「入場者数」1位・2位を達成しました。 その背景には、日本の美術館・博物館の中で最大規模のSNSフォロワー数を活用したデジタルマーケティング戦略があります。 本書では、森美術館がこれまで取り組んできた展覧会におけるさまざまなSNSの取り組みを紹介しています。 現代アートにおけるプロモーションの最前線を知っていただきながら、 アートとSNSの相性のこと、多少の失敗談など、楽しみながら読んでもらえる内容になっています。

マミトの天使

著者:市原佐都子
発行:早川書房
発行日:2019年6月6日
定価:2,160円(税込)
サイズ:20cm、211ページ

日本のみならず、世界から注目される演劇ユニットQを主宰する劇作家・市原佐都子の初作品集。「悲劇喜劇」誌に掲載され話題となった中篇小説「マミトの天使」に加えて、人の自意識と身体性にまつわる懊悩と希望を描いた「虫」と「地底妖精」の3篇を収録する。

アール・ブリュット

著者:エミリー・シャンプノワ
翻訳:西尾彰泰、四元朝子
発行:白水社
発行日:2019年7月3日
定価:1,200円(税抜)
サイズ:新書、150ページ

アール・ブリュットの起源、呼び名、概念、作品の素材や形式、愛好家やコレクター、近年のブーム、美術館や市場までを概説する。

アッセンブリッジ・ナゴヤ2018|ドキュメント

執筆者:川北眞紀子、中根多惠、秋庭史典、中村史子、佐藤知久 編集・発行:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会
発行日:2019年3月
定価:非売品(ウェブサイトよりPDFダウンロード可能)
サイズ:A5判、96ページ

アッセンブリッジ・ナゴヤ2018の活動をまとめたドキュメントブック。

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街の変わりゆく景色をどのように残すべきか|吉田有里:キュレーターズノート(2018年09月15日号)

裏切られた美術 表現者たちの転向と挫折 1910−1960

著者:足立元
発行:ブリュッケ
発売:星雲社
発行日:2019年6月6日
定価:3,600円(税抜)
サイズ:A5判変型、318ページ

戦前から戦後にかけての50年間における、美術・漫画・記録映画と社会運動の危険な交わり。美術を中心に、漫画、映画、アニメーションなどを研究する著者が、2008〜2018年に書いた文章をまとめる。

ゴットを、信じる方法。

企画、編集:中川恵理子
レイアウトデザイン:宮城巧
発行:京都造形芸術大学 ARTZONE
発行日:2019年5月10日
定価:非売品
サイズ:B5版、50ページ

京都のARTZONEで開催された展覧会「ゴットを、信じる方法。」(企画: ゴットを信じる会)のカタログ。

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ゴットを、信じる方法。|高嶋慈:artscapeレビュー(2018年06月15日号)


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2019/07/16(火)(artscape編集部)

2019年07月15日号の
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