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2009年06月01日号のレビュー/プレビュー

幻惑の板橋 近世編

会期:2009/04/04~2009/05/10

板橋区立美術館[東京都]

同館の所蔵作品から近世の美術を見せる展覧会。中身は常設展と大差ないとはいえ、見せ方を工夫しているため、けっこうな見応えがあった。畳を敷き詰めたお座敷に上がると、いくつもの屏風が立っており、来場者は腰を下ろした視点から間近で鑑賞できる。ガラスケース越しに見上げる屏風とはまた一味ちがった趣だ。また二つの展示室には、それぞれ狩野派と民間絵師による作品が分けて展示されているから、双方の質的なちがいを見比べることができた。なかでも、お経の文字だけで坊主を描いた加藤信清の《五百羅漢図》(1791年)が圧巻。輪郭はもちろん、色面まですべて文字で構成されている。果てしない執念とアホクサさが表裏一体であることを如実に物語っていた。

2009/05/03(日)(福住廉)

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神里雄大『グァラニー~時間がいっぱい』(キレなかった14才♥りたーんず)

会期:2009/04/21~2009/05/04

こまばアゴラ劇場[東京都]

〈日系のパラグアイ人〉という説明しにくいアイデンティティを生きる作家が描いた、自伝的な作品。面白かった。冒頭は、作家本人の反映である主人公の喫茶店での1人語り。自分を語る不確かさ、表現の不正確さを確認しながら、パラグアイに移ったばかりの、自尊心と自己嫌悪が混在する少年時代を振り返る。「誰も興味ないだろうが」と言いながら客に向かう矛盾に自嘲する場面がいい。自分を語り紹介するなんて日常でもよくすること。それが演劇化されるとむしろ気づかされるのは、ぼくたちの日常の演劇性。自分を語ることそれ自体の力をひらく神里の手つきはとても丁寧で、だからきわめて個人的なエピソードも他人事とは思えなくなる。夢と現実のギャップ。少年の魅力も惨めさもそこに集約される。エピソードは、「サザン」や「マテ茶」や「ビートルズ」や具体的な対象がどう他人と交わり、誤解や不理解を招いたかを明かすことで、味わい深さを湛える。演劇をちゃんとやっていると思った。

2009/05/05(木村覚)

松尾直樹 展─Spacing 3(登場と退場)─

会期:2009/05/05~2009/05/16

ギャラリー16[京都府]

ギャラリー16が進めている「シリーズ80年代考」の4回目。松尾直樹が1983年から85年に発表した4作品が展示された。いずれも一辺が2メートルを超える大作で、激しいストロークが特徴。ニューペインティングのブームが頂点を迎えた当時の作品であることが良くわかる。保存状態が良かったのか、四半世紀前の作品とは思えぬほど絵具の発色がフレッシュだったのも印象深かった。当時の関西では「関西ニューウエーブ」と呼ばれるほど絵画シーンが盛り上がりを見せたが、それをどう評価し位置づけるべきかという議論がきちんと行なわれていない。当時活躍した批評家や学芸員が現役のうちに美術館で企画展を行ない、再評価に着手してほしい。

2009/05/05(火)(小吹隆文)

『ダブル・テイク』

会期:2009/04/28~2009/05/06

パークタワーホール[東京都]

「イメージ・フォーラム・フェスティバル2009」で公開されたヨハン・グリモンプレの映像作品。アルフレッド・ヒッチコックのそっくりさんをモチーフにして、米ソの冷戦の歴史を振り返る構成だった。これまでの作品と同様、スピード感のある編集が見事だったが、全体の尺が長すぎるせいか、あるいは展開にメリハリがつけられていないせいか、次第に食傷気味になった。

2009/05/06(水)(福住廉)

よりみち・プロジェクト いつものドアをあける

会期:2009/05/09~2009/05/24

岐阜駅周辺から玉宮町界隈に点在する5ヵ所[岐阜県]

街中で美術展を同時多発的に行なうアートイベントは今や珍しくないが、このプロジェクトの特徴はコンパクトさ。各会場の距離が徒歩10分以内なので、ゆっくり歩いても2時間弱で回り切れる。背伸びせずDIY感覚で各会場(画廊、雑貨店、神社、カフェ等)と街の魅力をアピールしており、その力みの無さに好感を覚えた。なかでも、藤本由紀夫がディレクションしたpand(雑貨店)での展示、GALL ERY CAPTIONでの画廊とpandと河田政樹のコラボ、後藤譲が八幡神社で行なったさりげないインスタレーションは秀逸だった。

2009/05/09(土)(小吹隆文)

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