artscapeレビュー

2009年06月01日号のレビュー/プレビュー

ブラッドレー・マッカラム&ジャクリーヌ・タリー「思い通りに消せない記憶」

会期:2009/04/11~2009/05/17

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

黒人と白人のパートナーであるというブラッドレー・マッカラムとジャクリーヌ・タリーの個展。2008年に東京に滞在しながら、ちょうど40年前の1968年に報道された社会問題のイメージを加工した作品を発表した。それらはヴェトナム反戦運動、公民権運動、3億円強奪事件などの報道写真の上にレースのようなレイヤーを重ねてつくりだした朦朧としたイメージ。一見すると、歴史的なパブリックイメージの輪郭が薄れつつある現在の窮状を暗示しているようだが、しかし現在のウェブ社会がそれらのイメージを瞬時に召喚することができることを考えれば、むしろその固定化されたパブリックイメージに束縛されていることのほうが問題ではないだろうか。1968年のファントムが忘却されることに歯止めをかけようとするのではなく、それらを相対化しながら別のリアリティと出会おうとすることが課題である。

2009/05/17(日)(福住廉)

近藤等則パフォーマンス公演

会期:2009/05/17

BankART Studio NYK[神奈川県]

フリージャズのトランペッター、近藤等則の公演。原口典之の作品「ファントム」の前でトランペットを演奏した。アルミニウムの機体に音が反響するせいか、迫力のあるパフォーマンスだった。80年代に来日したヨーゼフ・ボイスが講演で話した音声とあわせて、いかにもフリージャズ的なトランペットを奏でていたものの、大半はむしろ演歌のようで、そのギャップがこの上なくおもしろい。(こういってよければ)哀愁を帯びた中年親父の背中を見た気がした。

2009/05/17(日)(福住廉)

田村実環 展

会期:2009/05/19~2009/05/31

ギャラリーマロニエ[京都府]

プリント柄の布地をモチーフにして、千変万化する光の表情を描いてきた田村だが、布地の存在感は明らかに縮小しており、もはや絵のきっかけに過ぎない。今や布地ではなく半透明のレイヤーといった感じだ。一方、水槽の水草を描いたり、蝶のシルエットが浮き出た新作も発表され、新展開の萌芽が感じられた。田村の作品は新たな段階に入りつつある。

2009/05/19(火)(小吹隆文)

岡田利規 演出『タトゥー』(デーア・ローアー作、三輪玲子 訳)

会期:2009/05/15~2009/05/31

新国立劇場 小劇場[東京都]

父娘の近親相姦が物語の中心。不在と化してくれない父にうんざりする家族の絶望的な状況が描かれる。演劇界の内輪においてはインパクトのあるテーマや台詞回しなのかも分からない。けれども、正直、新鮮さを感じなかった。ローアーの特徴とされる「無名の人々へ寄せる痛みに似た思い」(新野守広『ベルリンの窓』パンフレット、p.14)は、ひと頃のベンヤミン・ブームの際に語られまくったクリシェ以上には感じられない。こうした「痛み」を自ずとステレオタイプにし、これを語ればなにかを語ったことになるなどと思いなす無邪気な思考に基づいた荒唐無稽な形式こそ危険なはずで、そうした形式を批評していかない限り、「思い」はなんら在るべき実質を持ちえない気がする。
岡田利規は戯曲をポップなものへと変貌させていた。岡田の舞台は音楽に似てきている気がする。家族の会話は、極端な棒読み。冷え切った家族の表現であるとして、いつの間にか初音ミクが喋っているかのように聞こえてくる。娘を救い出そうとする青年が娘と執拗に続けるキスは、舌と舌が接触するだけ、奇妙で人間的じゃない。けれども、不思議にエロティックで、その反復のリズムはきわめてポップ。時に応じて上下動する、美術作家・塩田千春がドイツで収集した大小の窓枠、テーブル、椅子、ベッドの間を、岡田のアイディアが飄々と泳いでいた。

2009/05/22(木村覚)

安藤忠雄建築展2009 対決。水の都 大阪vsベニス 水がつなぐ建築と街・全プロジェクト

会期:2009/05/23~2009/07/12

サントリーミュージアム[天保山][大阪府]

「水」との親和性を基軸に、安東忠雄が現在進めているプランや過去の仕事を俯瞰した。圧巻は大阪・中之島のプロジェクトを紹介する全長20メートルを超すジオラマ。その精巧さはもとより、安藤のプランが(実現しなかった過去の提案も含めて)ふんだんに盛り込まれており、さながら一建築家の理想を具現化したかのようだ。JR大阪駅北ヤードの再開発案も、誰に頼まれるでもなく自主的に提案したもの。この辺りのバイタリティはさすがで、安藤忠雄いまだ衰えずの感を新たにした。記者発表では大阪の経済・文化・行政への不満、憂いを盛んに述べていたが、その言葉にさえ地元への深い愛着が感じられた。

2009/05/22(金)(小吹隆文)

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