artscapeレビュー

2009年09月01日号のレビュー/プレビュー

ライン京急『自主企画Vol. 1』

会期:2009/08/04

SuperDeluxe[東京都]

演奏家で文筆家の大谷能生チェルフィッチュの役者・山縣太一と組んだユニット、ライン京急。この名を冠に行なう自主企画が本イベント。演劇、音楽、ダンスとマルチジャンルのラインナップが興味深い。岩渕貞太は、顔を真っ赤に塗り、同じ場所でひたすら激しく踊った。グロテスクに感じるほどにエモーショナルな次元で踊る岩渕は、シンプルな振りに徹底する方法的アプローチによって、美しい運動を表わしえている。中野成樹の演劇は、飲食店でのアルバイターの物語。男2人と女1人、3人の距離感が軽妙に描かれる。「演劇とは?」など問うことなく単純に楽しんでしまえる軽妙さは、小演劇シーンのクオリティの高さを証している。女の生き方を男である岸野雄一は「ヒゲの未亡人」となって歌い踊る。主催のライン京急は、演劇、音楽、ダンスの今日的展開をすべて飲み込んだようなパフォーマンスを見せた。山縣が女の子をくどくという設定の演劇音楽は、発語が音楽にもなりダンスにもなることを、音楽が演劇にもダンスにもなりうることを見せつけた。最後は、大谷と山縣は、手塚夏子と神村恵が課す指令(「足の小指と薬指にものがはさまっている(のを感じよ)」など)を実演した。指令はシンプルなリズムとともに録音したソースとして流れ、2人は黙々とその指令に応えようと苦闘する。そのさまに爆笑する観客。手塚や神村の方法が、ポップな舞台へと変貌した瞬間だった。

2009/08/04(火)(木村覚)

染谷聡 展 御獣(おけもの)

会期:2009/08/04~2009/09/05

イムラアートギャラリー[京都府]

お椀のなかから胴体や手足がにょきにょきと生えたモノノケのようなオブジェを中心に、イラストや小品を交えた10数点を展示。いずれも漆芸で、蒔絵や螺鈿、沈金などの技法が凝らされている。モチーフの表面には漫画的な図柄や小品キャラクターを思わせる図像、文字などが散りばめられ、キッチュな匂いがプンプン漂っている。この伝統技法と現代性の融合が染谷の特徴である。また、イラストが出品されたのは今回が初めて。彼の造形がどのように形作られて行くかを別の角度から知ることができ、興味深かった。

2009/08/05(水)(小吹隆文)

堂島リバービエンナーレ2009「リフレクション:アートに見る世界の今」

会期:2009/08/08~2009/09/06

堂島リバーフォーラム[大阪府]

南條史生をアートディレクターに迎え、彼が手がけた2006年と2008年のシンガポール・ビエンナーレの出品作のなかから、政治的・社会的メッセージ性の濃い作品26点を選んで構成された。キリスト教とイスラム教の衝突をテーマにしたトマス・オチョアや、パレスチナ問題への抗議を過激に訴えたスーハ・ショーマンなど、映像作品が多数を占めており、照明・音響機材に恵まれた会場の特性を生かしたハイクオリティな展示が印象的だった。こと映像作品に関しては、既存の美術館より優れた展示だったと思う。日本ではなかなか見られないハードエッジな作品が多数を占めていたが、こうした作品群がもっと頻繁に紹介されるべきだ。内向き、ナイーブ、草食系、オタク……、知らぬ間にそんな作品ばかりに囲まれていたぬるい自分を実感した。

2009/08/07(金)(小吹隆文)

勝手に観光ポスター展

会期:2009/07/28~2009/08/16

LAPNET SHIP[東京都]

みうらじゅんと安斎肇による「勝手に観光協会」の個展。文字どおり勝手に作成した、47都道府県の観光ポスターを一挙に公開した。全体を一貫しているのはゆるい空気感で、それはそれでひとつのありうる立場だとはいえ、47枚も同じようなテイストが続くと、さすがに辟易させられる。もう少し緩急をつけたほうが、持ち味の「ゆるさ」が生きて、もう少し笑えるのではないかと、勝手に、思った。

2009/08/13(木)(福住廉)

元田久治

会期:2009/07/31~2009/08/30

Hpgrp GALLERY 東京[東京都]

荒廃した都市風景を版画で描き出す元田久治の個展。これまではモノクロームによって内側から朽ち果てる都市の病理を効果的に表現していたが、今回は単色カラーを大々的に導入した。モノクロによる迫真性を放棄した代わりに、ウォーホルのポスターのようなデザイン性を獲得したようだが、結果としてアニメチックに見えてしまっていた。それが狙いなのかどうかはわかりかねるが、別のステージを切り開きたいことだけは伝わってきた。

2009/08/13(木)(福住廉)

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