artscapeレビュー

2009年09月01日号のレビュー/プレビュー

CINDY SHERMAN at COMME des GARCONS AOYAMA

会期:2009/07/08

COMME des GARCONS AOYAMA[東京都]

コム・デ・ギャルソン青山店の店内に、いまシンディ・シャーマンの巨大な写真作品が展示されている。例によって奇怪なセルフ・ポートレイトだが、何よりも店内の空間を占有するほどの大きさに圧倒される。いつまで展示しているかは定かではないけれど、同店店内には東恩納裕一の蛍光灯によるシャンデリアも常設されているので、一見の価値あり。

2009/08/13(木)(福住廉)

荒木経惟 POLART6000

会期:2009/07/17~2009/08/20

RAT HOLE GALLERY[東京都]

写真家・荒木経惟の個展。およそ6000枚のポラロイドを一挙に発表した。ヌードはもちろん、著名人のオフショット、花画、縦に割った温泉卵や輪切りにしたタラコなど、あらゆる方向から人間のエロスを丸ごととらえようとする貪欲な視線が、写真の画面はおろか、ポラロイドの量によっても表現されていた。ほぼ同時期に表参道ヒルズで篠山紀信の個展が催されていたが、こちらはむしろ点数を抑え、あくまでも美的に、つまりアートフルに撮影しており、荒木と好対照だった。

2009/08/13(木)(福住廉)

他人の顔

会期:2009/08/12~2009/08/18

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

1966年制作の勅使河原宏監督作品。「武満徹の映画音楽」というイベントで上映されたように、音楽は武満徹、原作・脚本が安部公房、美術に磯崎新と山崎正夫。しかも平幹二郎演じる精神科医の病院内には、三木富雄の「耳」が設置されている。顔面に大火傷を負った男が他人の顔の「仮面」を手に入れることで妻の愛を取り戻そうとする物語に一貫しているのは、身体のパーツにたいする偏執的な視線。アイデンティティと結びついた顔はもちろん、水槽に沈められる手首の模造、岸田今日子のつりあがった口角、京マチコのなまめかしい脚、右顔を隠した入江美樹の左顔、そして仲代達矢の恐ろしいほど澄んだ黒い眼! こうした分析的な視線が次第にエスカレートしていき、虚飾や建前、化粧といった「表面」を切り裂き、その下に隠されているどろどろした「内面」をゆっくりとえぐりだしていくサディスティックなプロセスこそ、この映画の醍醐味である。

2009/08/13(木)(福住廉)

津田直 果てのレラ

会期:2009/07/11~2009/08/16

一宮市三岸節子記念美術館[愛知県]

北海道の礼文島と沖縄の波照間島を取材した新作「果てのレラ」を中心に、「七曜」「彼方の星」「盥(たらい)星図」などを組み合わせて構成された。日本の最北端と最南端を結ぶことで自身の座標軸を確認しようとする彼の態度は、近代以前の宇宙観をテーマにした「七曜」や、線香で穴をあけた和紙で星空を表現した「彼方の星」と「盥星図」と共鳴し、思索する写真ともいうべき津田独特の作品世界を濃厚に形作っていた。コンパクトながら過不足なくまとめられており、見終わった後に残る清涼な余韻も心地よい。

2009/08/15(土)(小吹隆文)

前衛のみやぎ─昭和期芸術の変革に挑んだ表現者たち─

会期:2009/06/20~2009/08/16

宮城県美術館[宮城県]

戦後の宮城県にゆかりのある「前衛」の作家を振り返る展覧会。吉野辰海、升沢金平、針生鎮郎、菅野聖子、新国誠一など、15人による作品およそ150点が展示された。シュルレアリスムからダダ、抽象美術、象徴詩、身体パフォーマンスなど、前衛の現われ方がさまざまな形式に及んでいることが一望できる展示になっている。なかでも圧倒的だったのが、ダダカンこと糸井貫二。50年代の版画から貼絵、パフォーマンスを記録した写真など、これまで発表されることのなかったものも含めて、30点あまりが一挙に公開された。コーデュロイ生地の上にバッジやらアップリケやら花札やらを縫い合わせた《ダダカンベスト》は、いかにもキッチュな見た目とは裏腹に、山伏の衣裳のような凄みを感じさせる。息子とともに制作した貼絵は、色とりどりのビニールテープを切り貼りして魚などを描いた単純な作品だが、よく見てみると、一本のテープで一切のたるみもなく滑らかな曲線を描くなど、思いのほか丁寧に仕上げられている。これらの作品は、今後のダダカン研究にとって貴重な礎となるにちがいない。惜しむらくは、これほど密度の濃い展示でありながら、図録が作成されていないこと。「宮城の前衛史」を読める日を心して待ちたい。

2009/08/15(土)(福住廉)

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