artscapeレビュー
現代美術の展望「VOCA展2011──新しい平面の作家たち」
2011年05月15日号
会期:2011/03/014~2011/03/030
上野の森美術館[東京都]
上野の森美術館は震災後、上野公園内の文化施設のなかでも一番早く再開したと聞いていたのだが訪れることができたのは結局最終日だった。入選者36名の作品が展示された今年は、関西でも活動を展開している馴染みある作家たちも多く、楽しみにしていた。VOCA賞受賞の中山玲佳の《或る惑星》は、画面に塗り重ねられた「闇」の色が想像以上に深く感じられた。空間的な奥行きもさることながら、一瞬の儚い幻影を薄い膜で被って留めようとしているかのような刹那的な印象があり、いっそう物語性を濃厚にする絵の具の透明感が美しかった。全長2メートルを超える大きな作品がほとんどだった会場では、石塚源太の漆作品や青山悟の小さな刺繍の表現は特に目を惹いた。しかし他の作品がピンとこなかったというわけではなく、全体にバラエティに富んだ内容だと感じたし、作家の意気込みやパワフルな制作態度が感じられるものがいくつもあった。なかでも、記憶のイメージや視覚の認識を揺さぶる水田寛の《マンション15》、鮮やかな色面で構成された冬耳の《永遠なんて言わないで。》は、これまで私が見たものとは異なる表現への挑戦がうかがえて新鮮だった。作品から新しい地平に立つ作家自身を想像するのは楽しい。震災後、胸がつかえるような重苦しい気持ちを引き摺っていたが、こちらも勇気づけられる気分になり、駆け込みでもやはり見に行ってよかったと思った。
2011/03/30(水)(酒井千穂)