2018年05月15日号
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artscapeレビュー

海沼武史「八人の王が眠りに就く処」

2011年05月15日号

会期:2011/04/07~2011/04/30

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

作家本人のプロデュースで会期中に「アイヌ音楽ライブコンサート」が開催されるということもあり、写真を見て最初は北海道の風景なのかと思った。そこに写っている、ゆったりとした丘陵地帯のたたずまいが、いかにもそれらしく感じたのだ。だが、聞けば撮影場所は海沼武史が住む八王子周辺だという。それで、この不思議な響きのタイトルの意味もわかった。「八人の王」というのは八王子から来ていたのだ。
その「八人の王」=八王子は、いま眠りに就こうとしている。太陽が沈み、黄昏時の紫がかった大気があたりを包み込み、家々の明かりが点灯され、空には星が瞬きはじめる。その移り行く時間を細やかに定着した写真群を眺めていると、そこに写っているのが現在の都市化された八王子ではなく、いわば太古の昔の風景であるように感じる。起伏のある地形が、より剥き出しのままあらわにされているようなその眺めは、安らぎとともにどこか怖さも感じさせるものだ。海沼がもくろんでいるのは、そんな始源的な風景のあり方を、黄昏時の光の魔術的な効果を利用しつつ、丁寧に写しとっていくことなのだろう。
1962年生まれの海沼は1996年に渡米し、帰国までの9年間、ニューヨークを中心にスピリチュアルな風景写真を発表してきた。その緻密な観察力、広がりを持つ作品の構想力が、いま大きく開花しつつある。

2011/04/20(水)(飯沢耕太郎)

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