石井孝典「Nio ヤドリの石」:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2018年08月01日号
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artscapeレビュー

石井孝典「Nio ヤドリの石」

2011年05月15日号

会期:2011/04/13~2011/05/28

TRAUMARIS SPACE[東京都]

NADiff Galleryの上のTRAUMARIS SPACEでは、石井孝典の個展が開催されていた。石井孝典の母方の祖母が暮らしていた香川県三豊郡仁尾町(現三豊市)の古い家を、6×6判のカメラで撮影したシリーズである。
石井孝典は小説家のいしいしんじの実弟であり、この仁尾の家についてはいしいの「小四国」(『熊にみえて熊じゃない』マガジンハウス、2010年所収)というエッセイに以下のように描写されている。
「それは広大な屋敷で、土蔵が二棟建ち、昔綿羊を飼っていたという菜園、日本庭園がふたつあり、昔の田舎屋敷がどこもそうであるように、家のなかでまだ足を踏み入れたことのない部屋が土間の向うや向い屋敷の奥にいくつもあった。昼間は海やすいかや鱚やでそこらじゅう喧しいが、夜は便所までの長い回廊が子ども心におそろしく、半透明に浮きあがるなにかの影を石灯籠や古いガラス面の上に幾度も見たとおもった。綿羊がいた菜園に、母の記憶によると戦前には象がいた」
石井孝典がここ10年ほどかけて、何度も通い詰めて撮影したという土蔵のある「広大な屋敷」の写真群を見ると、まさにこのいしいしんじの記述の通りの眺めで、その中に誘い込まれ、吸い込まれていくように感じた。庭のあちこちに石やら壷やら瓶やらが転がっていって、それらが大地から生え出しているように見えるのが実に興味深い。まさにアニミスムの生気に満たされた空間であり、屋敷そのものが神寂びた生き物のようにうごめき、いまなお不可思議な気配を発しているのだ。この屋敷を横糸に、それにまつわる家族の歴史を縦糸にして、さらに複雑な絵模様の写真シリーズを織り上げていけそうな気もする。

2011/04/28(木)(飯沢耕太郎)

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