2017年06月15日号
次回7月3日更新予定

artscapeレビュー

伊藤時男「断章」

2012年05月15日号

twitterでつぶやく

会期:2012/04/03~2012/04/13

コニカミノルタプラザ ギャラリーB[東京都]

伊藤時男は1980年代から「断章 Fragment」と題するシリーズを発表し続けている。これまで個展を6回ほど開催しているが、基本的なスタンスはまったく変わっていない。道を歩きながら目についた風景を、画面全体にピントが合ったパンフォーカスで切り取っていく。とりたてて変わったものが写り込むわけではなく、道端の植え込み、道路標識、舗道の白線、工事現場のフェンスなどが、雑然と画面のなかにひしめき合っている。唯一目を引くのは、時折写り込んでいる自分自身の影くらいだろう。だが、その切り取り方には細やかな神経と独特の美意識が働いており、この眺めをこの角度で見たかったという彼の意図が明確に伝わってくる。一見同じような場面に見えるのだが、それぞれに微妙な違いがあって、これはこれで現実世界の厚みと豊かさをきちんとさし示すシリーズとして定着しているのではないだろうか。
伊藤は1985~96年にかけて、ニューヨークを何度も訪れて、この「断章 Fragment」のシリーズを制作してきた。そのときは縦位置の写真が多かったのだが、最近は東京を中心とした撮影に移行し、横位置が多くなってきた。また今回、ずっと固執し続けてきた28ミリの広角レンズのほかに、50ミリの標準レンズにもトライしてみたのだという。
伊藤のこのシリーズが、まったく変わっていないようで、微妙に形を変えつつあることがわかる。コンセプトをきっちりと定めたライフワークであることに変わりはないが、緩やかに、彼の人生の軌跡と呼応するように、このシリーズもシフトしていくのだろう。逆に、これまでの作品を集大成した展示も見てみたいと思えてきた。

2012/04/12(木)(飯沢耕太郎)

▲ページの先頭へ

2012年05月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ