2017年06月15日号
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artscapeレビュー

芸術家Mの舞台裏:福永一夫が撮った「森村泰昌」

2012年05月15日号

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会期:2012/04/14~2012/05/17

B GALLERY[東京都]

福永一夫は1989年頃から、森村泰昌が制作するセルフポートレート作品の撮影を担当するようになった。森村はひとつの作品を完成させるために、衣裳、メーキャップ、ポーズ、そして舞台設定のセッティングに至るまで、細部にまで目を凝らしながら全精力を傾注していく。彼自身が画面に写り込むことが前提だから、当然誰かがシャッターを切ることが必要になる。そこで白羽の矢が立ったのが、森村と同じ京都市立芸術大学で学んでいた後輩の福永だったわけだ。
森村と福永の写真の師は、日系アメリカ人のアーネスト・サトウである。彼のアンリ・カルティエ=ブレッソンの写真を例に引いた、厳密なスナップショットの美学についての講義が、森村と福永の「共通の基盤」になっているのだという。つまり、最終的にこのような構図で、このタイミングでシャッターを切るということについて、2人には暗黙の了解事項があるということだ、福永の存在が、森村の旺盛な創作活動を、影で支え続けてきたことは間違いないだろう。
一方で、福永は森村の作品制作の現場を、折りに触れてライカで撮影してきた。それが今回展示された「芸術家Mの舞台裏」のシリーズである。こちらは森村の普段着の姿、また他者に成りきっていく変身の過程がいきいきと、克明にとらえられている。どちらかといえば気軽な、「撮ること」の歓びに突き動かされてシャッターを切った写真群なのだが、ここでもアーネスト・サトウ仕込みの的確なカメラワークが発揮されている。日本を代現する現代美術アーティストの「舞台裏」の貴重な記録というだけでなく、さまざまな出来事が同時発生的に起こってくる制作の現場が、スナップショットの素材として実に面白いものであることがよくわかる。森村の作品とはまた違った魅力を備えたシリーズといえるのではないだろうか。なお、展覧会にあわせて写真集『美術家 森村泰昌の舞台裏』(BEAMS)も刊行されている。

2012/04/22(日)(飯沢耕太郎)

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