artscapeレビュー
山崎弘義『DIARY 母と庭の肖像』
2015年04月15日号
発行所:大隅書店
発行日:2015年2月25日
山崎弘義は森山大道に私淑し、ストリート・スナップを中心に発表してきた写真家だが、2001年9月4日から母親のポートレートを撮影し始めた。少し後には自宅の庭の片隅も同時に撮影し始める。母が86歳で亡くなる2004年10月26日まで、ほぼ毎日撮影し続けたそれらの写真の総数は3600枚以上に達したという。本書にはその一部が抜粋され、日記の文章とともにおさめられている。
山崎がなぜそんな撮影をしはじめたのか、その本当の理由は当人にもよくわかっていないのではないだろうか。認知症の母親の介護と仕事に追われる日々のなかで、「止むに止まれず」シャッターを切りはじめたということだろう。だが、時を経るに従って、その行為が「続けなければならない」という確信に変わっていった様子が、写真を見ているとしっかり伝わってくる。単純な慰めや安らぎということだけでもない。むしろ、カメラを通じて、日々微妙に変貌していく母親、人間の営みからは超然としている庭の植物たちを見つめつづけることに、写真家としての歓びを感じていたのではないかと想像できるのだ。あくまでも個人的な状況を記録したシリーズであるにもかかわらず、普遍性を感じさせるいい仕事だと思う。
なお、発行元の大隅書店からは、昨年『Akira Yoshimura Works/ 吉村朗写真集』が刊行されており、本書は第二弾の写真集となる。あまり評価されてこなかった、どちらかといえば地味な労作を、丁寧に写真集として形にしていこうという姿勢には頭が下がる。
2015/03/01(日)(飯沢耕太郎)