artscapeレビュー
ヨーロピアン・モード──ドレスに見るプリント・デザイン
2012年06月01日号
会期:2012/04/12~2012/06/02
文化学園服飾博物館[東京都]
毎年この時期に開催されている学生向けの服飾史入門の企画。2階展示室では、18世紀ロココの時代から1970年代まで、200年にわたる欧米のモードの歴史をたどる。ドレス等の実物が展示されているばかりではなく、同時代の社会的背景が合わせて解説されており、様式や素材が変化した理由もわかりやすい。1階展示室では、ヨーロッパにおけるプリント・デザインの変遷が特集されている。ここでは、新しい技術が旧来の技術を置き換えるプロセスと、技術の変化が表現に与えた影響とを見ることができる。
すなわち、インド製品の模倣から始まったヨーロッパのプリント技術は、当初の木版から銅版に変わり、それによってより細かい表現が可能になると同時に、一度により大きな面積をプリントできるようになった。細かい図柄がプリントできるようになったことで、文様にはインド更紗の模倣ばかりではなく、織物の文様表現を模したプリントも現われる。銅版はローラー・シリンダーによる連続プリントへと発展し、さらに生産性を高めた。初期のローラーでプリントできるのは単色のみで、木版との組み合わせによって多色印刷が行なわれていたが、19世紀後半にはローラーのみで多色印刷が可能になり、量産と同時に多彩な文様の表現も可能になる。20世紀に入ると、シルクスクリーンの発達により絵画的な表現も可能になり、モードの担い手が若者に移った1960年代以降は安価なプリントが多用され、ファッションの大量生産・大量消費をうながしてゆくことになる。
技術が先にあるのか、はたまたモードのニーズが先にあるのか、「鶏と卵」のような関係ではあるが、いずれの段階でもプリント技術は外国からの輸入品や旧来の製品・技術を代替するかたちで発達してきた点に着目すれば、モードは技術革新を引き起こす原動力であり、他方で技術はモードの大衆化への推進力である、と言えようか。[新川徳彦]
2012/05/11(金)(SYNK)