artscapeレビュー

都築響一presents 妄想芸術劇場 ぴんから体操

2012年06月01日号

会期:2012/04/30~2012/05/12

ヴァニラ画廊[東京都]

いわゆるエロ雑誌の投稿イラストページに25年以上も投稿を続けている、ぴんから体操の個展。投稿されたイラストのなかから厳選された作品で会場の壁面という壁面がびっしりと埋め尽くされ、屈折した欲望が匂い立つような迫力を醸し出していた。
なかでも際立っていたのが、暖色系の色彩で丸みを帯びた女体を描いたシリーズ。頭部と乳房と臀部をすべて丸に還元して再構成した女体は、もはやエロティシズムの対象ですらなく、部分と部分を接続させて理想的な女体を造成しようとした結果、えもいわれぬ怪物をつくり出してしまったように見えたからだ。限界芸術としての手わざを反復していくうちに、やがて欲望が極限化してゆき、ついに限界芸術から離れた異形の物体を創造してしまったぴんから体操。そこに、じつは純粋芸術にも大衆芸術にも限界芸術にも通底する、ものづくりの核心がひそんでいるように思えてならない。あえて比較するとすれば、バッタもんのバッタもんの制作に熱中している90歳のおばあさんも、ぴんから体操の「狂気」を、方向性こそちがうとはいえ、じつは共有しているのではないだろうか。
なお、余計な一言を付け加えておけば、本展企画者の都築響一は、ぴんから体操のような周縁的なクリエイターの仕事を、例によって現代美術界からの無視や黙殺に対抗するかたちで紹介しているが、きわめて例外的であるとはいえ、現にこのようにして鑑賞され、言説化されている以上、その手はもはや通用しないのではないか。都築自身による新たな文脈化、もっと平たく言えば、新たな「芸」を期待したい。

2012/05/10(木)(福住廉)

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