artscapeレビュー

2012年06月01日号のレビュー/プレビュー

バッタもんのバッタもん

会期:2012/04/10~2012/04/22

gallery ARTISLONG[京都府]

美術家の岡本光博による企画展。岡本による作品《バッタもん》をはじめ、その型紙をもとに有名無名を問わず71人が制作したバッタもん131匹が一挙に展示された。同じく美術家の鷲見麿によるミニチュアのバッタもん800匹を使ったトロンプ・ルイユ(騙し絵)もあわせて発表されたから、合計すると、およそ1,000匹弱のバッタもんが勢ぞろいした、大迫力の展示である。
会場に群棲したバッタもんは、フォルムがおおむね共通している反面、表面のテクスチュアや色合いなどは、まさに千差万別。素材もダンボールやタオル、フェイクレザー、レース、ビーズ、フランスパンなど多岐にわたっている。なかにはろうけつ染めや藍染、日本刺繍、嵯峨錦など伝統工芸の技術を転用したものや、再利用を謳う百貨店の紙袋を文字どおり「再利用」した人や、自作の絵画のキャンバスを切り貼りして再構成した画家もいる。下は8歳から上は90歳まで、美術の素人から専門的な職人まで、ようするに純粋芸術から限界芸術まで、あらゆる人びとによるものづくりの力をまざまざと感じることができた。
実際、このバッタもんだらけの展覧会を見て思い知るのは、そうしたものづくりが人間にとってきわめて本質的なものだという事実である。90歳のおばあさんがひとりで30匹ものバッタもんを制作したという逸話を耳にすれば、そのことがよりいっそう深く理解されるにちがいない。
岡本の《バッタもん》は、かつて公立美術館に展示された際、一私企業からのクレームにより不当にも撤去されてしまったが、今回のある種のアンデパンダン展では、「表現の自由」への侵害に抗議するだけでなく、《バッタもん》を純粋芸術から限界芸術へと飛翔させることで、表現の魅力を広く解き放ったところが、何よりすばらしい。アーティストは、ネガティヴをポジティヴに、じつに軽やかに反転させてしまうのである。

2012/04/21(土)(福住廉)

Mètis─戦う美術─

会期:2012/04/07~2012/05/20

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

3.11以後の不穏な日常を生きるための「戦術」(Mètis)をテーマとした展覧会。30歳前後のアーティスト、6人(組)が参加した。企画者のステイトメントにはセルトーが引用されていたので、政治的ないしは社会的なアートを期待したが、実際に発表された作品の多くは内向的で、どこが「戦術」なのか、理解に苦しんだ。必ずしも3.11に直接的に言及する必要はないとはいえ、私たちの目前に大きく立ちはだかる社会という壁を相手に、これではとても満足に闘うことはできまい。唯一、巨大な髑髏のオブジェを中心に映像インスタレーションを構成したヒョンギョンだけは、髑髏に包丁を、天井に有刺鉄線を、映像にメリー・ホプキンが唄う「Those Were the Days」を、それぞれ用いるなどして、辛うじて日常生活にひそむ暴力性を詩的に表現しえていたと思う。

2012/04/21(土)(福住廉)

光あれ! 河口龍夫──3.11以後の世界から

会期:2012/04/03~2012/04/22

いわき市立美術館[福島県]

3.11以後、どのようなアートが必要なのか。多くのアーティストは自問自答を繰り返している。これまでの作風を一変させる者もいれば、あえて貫き通す者もいる。考えあぐねたまま、何も手につかない者もいる。だが、ほとんどの美術家に通底しているのは、震災前から確保してきた表現する主体としての自己を、震災後も持続させる構えだ。
被災地のいわきで催された河口龍夫の個展は、そのような自明視を根底から問い直したという点で、画期的だったと思う。展示されたのは、河口が震災直後から制作した作品200点あまり。東北各地の被害を伝える新聞紙を一月ずつ束にして紐で縛り、わずかに着色するなどして物体として定着させた作品や、蓮の種子を貝殻の内側に仕込んで真珠に見立てる作品など、いずれも東日本大震災を主題としながらも、そのことに狼狽し、混乱し、不安に陥り、しかしそこから立ち直ろうともがく河口自身の姿が透けて見える作品ばかりだ。
《手始め》は、文字どおり震災後に河口が初めて手がけた作品。河口自身の手が描かれたシンプルなドローイングで、何から手をつければよいのか途方に暮れた河口が、表現することを一から見つめ直しているように見える。再起のための手がかりを、みずからの「手」に見出すところに、3.11以後を生きなければならない私たちは、大きな共感を寄せるにちがいない。
表現することとは生きることである。それゆえ生き方に大きな修正が迫られたとき、表現だけが無傷であるわけがない。行き先を見失ったのであれば、原点に立ち返ればよい。そこから再び道を切り開くという基本的な態度を、河口龍夫は示した。

2012/04/22(日)(福住廉)

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ART KYOTO 2012

会期:2012/04/27~2012/04/29

国立京都国際会館アネックスホール、ホテルモントレ京都[京都府]

今年から名称を改め、会場も2カ所に増加した「ART KYOTO」。2会場はエリアは異なるが、地下鉄で直結しているため20分程度で移動できた。参加画廊は100に及び、ブース形式のゆったりしたスペースに大作が並ぶ国立京都国際会館と、ホテルの客室で小品をメインに展示するホテルモントレ京都という具合に性格分けもはっきりしていたので、これまでよりもバラエティに富んだアートフェアになったのではないか。つまり、グレードアップしたということだ。ただ、アートフェアの成否はあくまでも売上と動員であろう。その点、今回はまだ認知不足の感は否めない。来年以降も我慢強く継続して、関西に現代アートのマーケットを築くという目的を達成してほしい。また、今回は関連イベントとして「映像芸術祭 MOVING 2012」「ANTEROOM PROJECT」「Grassland」といった展覧会が京都市内各地で同時開催され、若手作家たちの自主企画「KYOTO OPEN STUDIO 2012」も同時期に行なわれるなど、ゴールデンウイークの京都は現代アートイベントの花盛りとなった。このような地域的盛り上がりをつくり上げることで、行政や地元経済界に観光資産としてのアートの価値をアピールするのも重要であろう。

2012/04/27(金)~29(日)(小吹隆文)

佐伯祐三とパリ──ポスターのある街角

会期:2012/04/28~2012/07/16

大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室[大阪府]

佐伯祐三(1898-1928)は近代日本洋画を代表する画家の一人。彼はパリの街角を題材に多くの傑作を残した。本展は、佐伯の代表作に、1920年代前後のパリの街角を飾った実際のポスターをあわせて紹介するもの。画家としての佐伯祐三の生涯は、通常、渡欧までの初期(1898-1923)、第一次滞欧時代(1924-26)、一時帰国時代(1926-27)、第二滞欧時代(1927-28)の四期に分けられる。とくにパリは遠い異国からやってきた若い画家の創造の源泉となり、画家はパリの街角を凝視し続けたのである。彼が滞在していた、20世紀初頭のパリといえば、ポスターが日常生活に密着した身近なものであった。いわゆるヨーロッパ・ポスター芸術の黄金時代。アール・ヌーヴォーやアール・デコといった芸術運動のなかで、芸術性の高いポスターが数多く制作され、トゥールーズ=ロートレックやミュシャ、シェレなど、たんなる職人ではない、人気ポスター作家も現われた。ポスターは、当時、佐伯祐三が魅せられた芸術の都パリの街角の息吹を伝えてくれる。[金相美]

2012/05/01(火)(SYNK)

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