artscapeレビュー

モバイルハウスのつくりかた

2012年06月01日号

会期:2012/06/30~2012/07/27

ユーロスペースほか[東京都]

本田孝義監督が、坂口恭平の「モバイルハウス」の制作過程を丹念に記録したドキュメンタリー映画。ホームセンターで買い集めた材料で組み立てた極小の住宅と言えば、幕末の探検家、松浦武四郎の「一畳敷」が連想されるが、坂口のモバイルハウスには車輪がついており、駐車場に設置できるという点に大きな特徴がある。法的には「住宅」というより「車両」として取り扱われるため、駐車場代さえ払えば、高い家賃を支払うという呪縛から解放されるというわけだ。人が生きていくうえで必要最低限の空間を自分でつくる楽しさにあふれた映画である。ただ、映画を見通して心に残るのは、坂口の類い稀なカリスマ性というより、むしろ坂口にモバイルハウスのつくりかたを教授する「多摩川のロビンソンクルーソー」の偉大さである。確かな技術と柔軟な発想、そしてはるかに年下の生意気な青年を懇切に指導する忍耐力。このような人物こそ、ほんとうのアーティストと言うべきである。

2012/05/09(水)(福住廉)

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