artscapeレビュー
トラジャル・ハレル『Twenty Looks or Paris is Burning at The Judson Church(XS)』
2012年06月01日号
会期:2012/05/19
森下スタジオ[東京都]
ニューヨークのダウンタウンを中心に活動するトラジャル・ハレルが本作で試みているのは、1960年代のニューヨークでともに活動し、しかし交流することのなかった2つのダンス、ひとつはダウンタウンの「ジャドソン・ダンス・シアター」、ひとつはアップタウンの「ヴォーギング」、これらを舞台上で出会わせてみるというものだ。白人のハイ・アートと黒人中心のクラブ・カルチャーのあり得なかった邂逅をコンセプトにするということも面白いが、XSからXLまでの5種類のヴァリエーションが本作にはあって、しかもタイトルの最後に「(XS)」とあるようにそれを衣服のサイズで表現しているのはとてもユニークだ。ヴォーギングがファッション雑誌『ヴォーグ』の表紙のポーズを真似ることから発展したダンスであるからという点だけではなく、そもそもファッションという第三の要素がハレルの興味のなかに含まれている証拠だろう。最初に、コンセプトを伝える資料が配られ、本人の口頭での作品説明のあと、資料をじっくり読むよう観客に伝えると、ハレルはいったん退場し、一度目は着物姿、二度目はカラフルなエプロン姿で現われ、家庭用の照明スタンドを舞台のあちこちに配置する。やや長いこうした準備の後で、ハレルは虎模様のスエット姿で登場する。照明が暗くよく見えない。舞台に置いたiPhoneからゆったりした音楽が流れると、ハレルはゆっくりと腰をくねらせるような踊りをみせた。暗くてよくわからないのは、恐らく戦略的な仕掛けであり、単にジャドソン系でも、ヴォーギングでもない、どちらかといえば腰のくねりや腕の曲がり方からゲイ的な身体動作の印象が強く残る。少し踊っては上着を一枚ずつ脱いでいくのだが、シャツの変化よりも、脱いで仕切り直したことだけが意味を持つ。準備の場面やシャツの着替えのように多数のフレームを設定し、多様な要素を示唆しながら、ひとつの理解に固定される事態をするするとかわし続ける。最初の作品説明の際、両手でTのジェスチャーをしたら終わりの合図だと言ったとおりに、ハレルがそのポーズを不意にすると真っ暗になり、終演した。そのときの尻切れトンボ感も「かわし」のひとつに思われた。
2012/05/19(土)(木村覚)