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artscapeレビュー

Q『いのちのちQ』

2013年03月01日号

会期:2013/02/08~2013/02/11

さくらWORKS<関内>[神奈川県]

Qという劇団名はかつての作品タイトルでも用いた「虫」という文字の字面に似ていることに由来する、とどこかで読んだ。意味に従う仕方とは異なるこうした奇妙なかたちへのセンスが主宰の市原佐都子のうちにあるようで、本作のタイトルもやはり意味不明でしかもどことなく不気味だ。この不気味さは、意味を超えて何かと何か(ここでは「いのち」と「Q」)が無闇に接合されてしまう生理的感触から来るものだろう。ああ、でも、それこそ、生命(より端的にいえば生殖)というものの実質なのではないか。昨年末『虫』を見て以来というQ観劇歴の浅い筆者なのだが、Qの劇の核になっているのは、虫のそれのように不気味な生殖=生命というものの実質なのではないかと、観劇後に強く思わされた。
本作はペットブリーダーの一室が舞台。家では4匹の小型犬が飼われている。3匹の血統種は室内で、1匹の雑種はベランダで暮らす。ペットブリーダー(人間)に支配されている犬たちの生命のいびつさ。それが近親相姦的交配のエピソードなどとともに描かれると、先述した不気味さに見る者は取り囲まれてしまう。テレビ番組『どうぶつ奇想天外!』を見る美貌の犬はジョセフィーヌという名で、八景島シーパラダイスのセイウチとの交尾をかすかに夢見る。だが、ナイスという名のふとっちょなフィアンセとの交尾以外、彼女に選択肢はない。純血種の暮らす室内の逃れられない密閉感は水槽の生命に似ている。見ていて息苦しくなってくる。この苦しさは、人間の生の今日的なありようと重なるようでもあり、そう連想するとさらに一層息苦しくなる。ただし雑種の生はまた別だ。雑種の犬の名は「のりのみや」。天皇家出身であるものの一般男性のもとに嫁いだ女性の名に相応しく、彼女の生は純血のサイクルからはみ出ている。寿司を置いていく代わりに性交を求める人間の存在など、雑種の犬の生は暴力的だが自由でたくましい。こうした純血種と雑種の対比にQの作劇の確かさを感じる。ところで、この対比といい、生理的嫌悪を誘発する不気味さといい、岡崎藝術座と近いと思わされてしまうのは気のせいか。ともあれ、雑種交配への夢と現実は、どんな妄想へと飛躍していくのだろう。そう思い、今後の市原がつくる作品に期待してしまう。

2013/02/11(月)(木村覚)

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