artscapeレビュー

渡部雄吉 写真展 張り込み日記

2013年03月01日号

会期:2013/02/02~2013/03/03

Gallery TANTO TEMPO[兵庫県]

1958年に実際に起こった殺人事件の取材を許された渡部雄吉(故人)は、2人の刑事に同行して、捜査状況を捉えた写真シリーズを撮影した。それらは、ドキュメントでありながらどこかフィクショナルでもあり、フィルムノワールのスチール写真だと言われたら信じてしまいそうな雰囲気に満ちている。また、作品に写り込んだ昭和30年代の街並みや風俗も貴重である。そもそも、殺人事件の捜査に一写真家が同行するなど今日ではありえず、それだけでも本作の価値は揺るぎないだろう。長らく誰も存在を知らなかった彼の作品が注目を集めたのは、2011年秋のこと。フランスの出版社が写真集を出版し、各地で受賞したことがきっかけだ。本展では、渡部の子息の了承を得て、残されたネガからニュープリントした作品を展覧。また、フランスの出版社とは異なる構成で新たに写真集を出版することも計画されている。さまざまな意味で目が離せない展覧会である。

2013/02/09(土)(小吹隆文)

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