2022年08月01日号
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artscapeレビュー

記憶写真──お父さんの撮った写真、面白いものが写ってますね

2013年03月01日号

会期:2013/02/16~2013/03/24

目黒区美術館[東京都]

ここに展示されている写真は作品として撮られたものでもなく、報道用に撮影されたものでもない。記録を意図していたかどうかもわからない、普通の人々が見た街の風景である。撮影は1960年代から70年代。めぐろ歴史資料館の所蔵品からピックアップされ、拡大プリントされた写真が「都市と農村」「人々と駅」「商店街」「祭」「学校の子どもたち」といったタイトルの下にゆるくまとめられている。キャプションも最低限。
 展覧会のタイトルは「記憶写真」。人はふとした拍子に過去の体験や記憶を呼び覚まされる。そのきっかけとなるのは、音楽であったり、風景であったり、匂いであったり、味であったり。それが必ずしも自分自身の体験と交差したものではなくても、埋もれていた記憶が蘇ることがある。この展覧会の写真もそのような記憶を呼び起こすトリガーである。写真に写った建物、看板、人、ファッション、自動車やバス、電車、川や橋、教室、祭の風景、季節の移ろい……。撮影者はなんらかの意図があってその写真を撮ったのであろう。その時代の風俗を読み解く歴史資料としての写真の見方もあるだろう。しかし、そのような理屈は考えずにこれらの写真と対峙したときに、私たちは目にしたものを自分自身の知識や体験に重ね合わせたり、それをきっかけに子ども時代のこと、青春時代のことを思い出す。そこに何が浮かび上がってくるかは写真と鑑賞者とのあいだに一対一で成立する関係であり、この展示が見せてくれるのは他の人が追体験することができない無二の世界なのである(「秋岡芳夫とKAKの写真」展と併催)。[新川徳彦]

2013/02/21(木)(SYNK)

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