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新聞錦絵─潁原退蔵・尾形仂コレクション─

2013年04月01日号

会期:2013/02/09~2013/04/14

福生市郷土資料室[東京都]

新聞錦絵とは、明治7(1874)年から数年間発行された木版多色刷りの一枚物。新聞に掲載された事件や逸話を錦絵と文章でわかりやすく伝えたマスメディアである。本展は、国文学者の潁原退蔵から尾形仂へ受け継がれてきた新聞錦絵のコレクションが同室に寄贈されたことを記念した展覧会。新聞錦絵を中心に約100点の資料が展示された。
新聞錦絵といえば月岡芳年が知られているが、今回展示された新聞錦絵の大半は、「大阪錦絵新聞」のような上方の新聞錦絵。東京の新聞錦絵より判型が一回り小さいが、扇情的な画題を色鮮やかな錦絵と平明な文章で伝える形式は、ほとんど変わらない。取り上げられている出来事は、「夫が浮気した女房を殺害した話」「養女を折檻した鬼婆の話」「外国人が猟に行き誤って子どもを撃ってしまった話」など、センセーショナルな事件が多い。開港によって輸入された西洋由来の鮮やかなインク(とりわけ赤と紫)が、暴力描写を劇的に高めているのも頷ける。
ただ、細かくみてみると、「男性として7年間暮らした女性の話」や「料理屋の娘が華族のお誘いを粋に断った話」、「古狐が娘に化けていた話」など、画題は必ずしも刃傷沙汰に限られているわけではないことがわかる。平たく言い換えれば、「ひどい話」ばかりだけでなく、「おもしろい話」や「良い話」もあったのだ。だとすれば、新聞錦絵とは明治時代に固有のニュース・メディアであったのと同時に、落語や講談のような大衆芸能にも重なりあう、ハイブリッドなメディアだったのではないだろうか。
事実、本展でていねいに解説されていたように、従来の新聞が想定する読者層が知識人だったのとは対照的に、新聞錦絵のそれは一般大衆の婦女子であり、彼らが読みやすいように、新聞錦絵の文章は平仮名を中心に記述され、漢字を用いる場合であっても、すべて振仮名が振られていた。文体も、新聞記事の文章をそのまま転載したわけではなく、同じ内容を五七調に改めることで、言葉が跳ねるようなリズム感をもたらしている。つまり、新聞錦絵の錦絵が劇的に脚色されていたのと同じように、その文章もまた劇的に演出されていたのだ。
「ひどい話」をよりひどく、「おもしろい話」をよりおもしろく、「良い話」をより良く語ること。落語や講談が開発してきた独自の文法と、浮世絵から展開してきた錦絵との合流地点に新聞錦絵を位置づけることができるのではないか。

2013/03/13(水)(福住廉)

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