artscapeレビュー

吉原芸術大サービス

2013年04月01日号

会期:2013/03/03~2013/03/10

吉原会館ほか[東京都]

かつては遊郭、現在はソープランドの街として知られている吉原で開催された展覧会。公民館や喫茶店、神社、公園などを会場に、20組あまりのアーティストが作品を展示し、パフォーマンスを披露した。
地図を片手に作品を探し歩くなかで、ソープランド街に迷い込んで呼び込みに眼をつけられたり、関東大震災で亡くなった遊女たちを供養するために建立された吉原観音像のキッチュな迫力に圧倒されたり、街歩きと美術鑑賞を一体化させた手法は、今日では決して珍しくはないとはいえ、おもしろいことにちがいはない。ただ、展示された作品の多くは、この街独特の雰囲気や建物に埋没しがちだった印象は否めない。
そうしたなか、ひとり気を吐いていたのが、高田冬彦である。吉原神社の倉庫の一室を暗室にして映像インスタレーション《偉い石プロジェクト》を発表した。何の変哲もない石がガラスケースのなかに展示され、その前の壁面には、その石をモチーフにした映像が投影された。映像には、チンドン屋とともに石が商店街を練り歩いたり、生肉を巻いて山中に放置された石に蛆虫がわく様子を執拗にとらえたり、目隠しのうえ両手を後ろで縛られた高田自身が衆人環視のなか路上で石とともに悶絶したりする様子が映っている。
映像の中心には、必ず石があった。つまりあらゆる表現は石を伴っていたが、見方によっては石が表現の主体であるかのようにも見えた。高田がさまざまなアプローチから迫ったのは、自己表現の内核にはそうした主客の転倒がありうるということではなかったか。

2013/03/08(金)(福住廉)

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