artscapeレビュー
今津景 個展 ‘PUZZLE’
2013年04月01日号
会期:2013/03/02~2013/03/30
山本現代[東京都]
今津景の新作展。既存のイメージをゆらめく色彩によって再構成することで夢幻的な光景を描く美術家として知られているが、今回の新作展では、これまでの作風を持続させながらも、新たな展開を遂げていた。
全体的にはドラクロワやマネ、広重など過去の美術史からの引用にもとづいていたが、個別的には画面に複数の焦点が顕在化していたように見えた。通常、絵画の画面は描写の対象となる主題に焦点が当てられ、それらをフレームによって確定することで、絵画としての均衡状態をもたらすが、今津の新作のうちの何点かは、主題を任意に消去しているからなのだろうか、画面のなかで焦点を安定化させることが著しく難しい。フレームのなかのどこに焦点を当てようとも、何とも収まりが悪く、どこか落ち着きの悪さが残るのである。
こうした焦点の複数性は、昨今の現代絵画に散見される、画面のレイヤー構造を正当化する視点の複数性とは明らかに異なっている。視点の複数性が現代社会における複雑なメディア環境を反映させることで現代絵画を一気に蘇生させようとする一方、焦点の複数性は逆に絵画としての成立条件を根本から再考させるからだ。
安定的な均衡状態を欠いた絵画は、はたして絵画たりうるのか。危険極まりないが、しかし、最も考察に値する問いを、今津は絵画において検討しているのではないか。
2013/03/07(木)(福住廉)