artscapeレビュー

大﨑のぶゆき「T」

2013年10月15日号

会期:2013/09/17~2013/09/28

gallery 16[京都府]

描かれた絵や壁紙のイメージが溶けて崩れ落ちていくという映像作品を国内外で発表している大 のぶゆき。京都では数年ぶりの個展が開催された。今展で発表されたのは、友人“T”の記憶をもとに制作された3点のインスタレーション作品。“T”から聞いた子どもの頃の思い出とそれらにまつわる写真などを手がかりに、大崎自身がその場所に足を運んだりインターネットで調べたりして取材を行ない、“T”の記憶を「トレース」するというものだった。取材をするなかで大﨑は“T”の記憶自体に曖昧で不確かな点があることを知ったという。絵が流れ落ちるように溶け崩れていく映像、ミニカー、カメラ、当時撮影されたと思しき“T”の家族の写真(複製)など、複数のもので構成された作品は、“T”の体験に想像をめぐらせ、物語を連想させる。それは、“T”本人の思い出、それを「トレース」した大 、そして鑑賞者の想像という重層的なフィクションで覆われていくものでもあり興味深く思った。記憶という情報の頼りないのあり様がいっそう儚く感じられる雰囲気も表現も魅力的だった。

2013/09/21(土)(酒井千穂)

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