artscapeレビュー

甲斐啓二郎「Shrove Tuesday」

2013年10月15日号

会期:2013/09/24~2013/09/29

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

甲斐啓二郎は1974年、福岡県生まれ。日本大学理工学部卒業後、東京綜合写真専門学校で写真を学び、2002年に卒業している。
今回、TOTEM POLE PHOTO GALLERYで展示されたのは、イングランド中北部、アッシュボーンで行なわれている、「世界最古のサッカー」といわれる「シュローヴタイド・フットボール」の試合を撮影した写真群だ(新宿ニコンサロンでも9月3日~16日に同シリーズを展示)。謝肉祭の最後の日(Shrove Tuesday)に開催されるこの行事では、村を流れる川の両岸の住人たちが、午後2時から10時まで一個のボールをめぐってぶつかり合い、どこにあるのかもよくわからないゴールを目指す。特別なグラウンドなどはないから、村の道や広場でも、森や川でも、時には住人たちの家の庭までもが、ボールを奪い合い、蹴り合うフィールドになる。教会の敷地以外は、どこに入り込んでもいいというルールなのだそうだ。
甲斐はその試合の状況を記録するにあたって、村人たちの顔つきや身振りを中心に撮影することに徹することにした。肝腎のボールがまったく写っていない写真が並んでいるのはそのためだ。一見トリッキーなこのアプローチが逆に成功して、群衆の湧き立つようなエネルギーの噴出ぶりが、見る者にいきいきと伝わってくる。現代の場面にもかかわらず、どこか神話的な戦いの描写のように見えてくるのが興味深かった。ただ、会場のテキストでは、状況の説明が一切省かれていた。このことについてはやや疑問が残った。350年以上続く「世界最古のサッカー」であることが知識として与えられていたとしても、このシリーズの面白さが減じるわけではないと思う。

2013/09/29(日)(飯沢耕太郎)

2013年10月15日号の
artscapeレビュー