artscapeレビュー
木原悠介「DUST FOCUS」
2016年08月15日号
会期:2016/06/29~2016/08/06
POETIC SCAPE[東京都]
何を撮るのかというのはやはり大事だと思う。1977年、広島県出身の木原悠介が、ここ10年あまり撮影し続けているのは、商業施設や飲食店の天井裏にある排気用の「ダクト」である。なぜ、そんな写真を撮るようになったかといえば、アルバイトで「ダクト」の清掃の仕事を続けてきたからだ。その作業をしているうちに、木原は縦横25×35センチほどの狭い空間の眺めに惹きつけられるようになり、それらをレンズ付きフィルム(使いきりカメラ)で撮影し始めた。今回、東京・中目黒のPOETIC SCAPEで開催された写真展では、そのなかから17点が展示されていた。
「ダクト」の形状に微妙な違いはあるが、中央奥に四角い平面が見える遠近法的なスペースである事は共通している。どこか杉本博司の「劇場」シリーズを思わせる同じ構図の写真が淡々と並ぶのだが、見ているうちにじわじわとその面白さが伝わってくる。何といっても圧倒的なのは、写真展のタイトルにもなっている「DUST」の、多様かつ魅力的な存在感だろう。「ダクト」にこびりついた塵芥が、さまざまな形状、フォーカシングで目に飛び込んでくるのだが、それはそのまま、われわれの現実世界のめくるめく多様さに見合っているようでもある。狭い空間に体を捻じ込んで、フラッシュを焚いて撮影している木原の身体感覚が、息苦しいほどのリアリティで伝わってくるのもいい。ユニークな写真作家の登場だ。
なお、展覧会に合わせて、SUPER BOOKSから同名の写真集が刊行された。表紙は顔を布で覆って、目だけを出して「ダクト」に潜り込んで作業中の木原のセルフポートレート。それがとても効いている。
2016/07/13(水)(飯沢耕太郎)