artscapeレビュー

馬場磨貴「We are here」

2016年08月15日号

会期:2016/07/23~2016/08/07

OGU MAG[東京都]

1996年に「ふたり」で第33回太陽賞の準太陽賞を受賞し、朝日新聞社写真部勤務やフランス・アルル留学の経験もある馬場磨貴(うまばまき)は、現在フリーランスの「マタニティーフォトグラファー」として活動している。妊婦をヌードで撮影し始めたのは2010年からだが、東京・東尾久のギャラリーOGU MAGUで開催された個展「We are here」を見ると、撮り方、見せ方が大きく変化してきたことがわかる。
当初は撮影した妊婦の画像を、街の日常的な光景にはめ込んでいた。駐車場や横断歩道や歩道橋にヌードを配する写真群もかなり面白い。だが、それらはまだ、画面に異質な要素を対置する異化効果のレベルに留まっていた。ところが、東日本大震災をひとつの契機として、作品の発想がまったく変わってくる。妊婦は怪獣並みに巨大化し、風景に覆いかぶさるようにコラージュされるようになる。しかも、彼女たちの背景になっているのは、ビル街や東京ドームだけではなく、福島原発事故現場近くの立ち入り禁止地域のゲート周辺、福井県の高浜原子力発電所、広島の原爆ドームなどである。
馬場の意図は明らかだろう。妊婦という生命力の根源のような存在を「社会的風景」に組み込むことで、単純なヴィジュアル・ショックを超えた政治性、批評性の強いメッセージを発するということだ。その狙いはとてもうまくいっていると思う。堂々とした妊婦たちの存在感が、風景に潜む危機的な状況を見事にあぶり出している。残念なことに、会場が狭いのと作品数がやや少ないので、このシリーズの面白さを充分に堪能するまでには至らなかった。どこか、もう一回り大きな会場(野外でもいいかもしれない)での展示を、ぜひ考えていただきたい。なお、赤々舎から同名のハードカバー写真集(表紙のデザインは3種類)が刊行されている。

2016/07/23(土)(飯沢耕太郎)

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