artscapeレビュー

ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー

2011年03月01日号

会期:2011/01/08~2011/03/21

金沢21世紀美術館[石川県]

なぜ写真家はアーティストになりたがるのだろうか。荒木経惟しかり、篠山紀信しかり。「カメラマン」はいつのまにか「フォトグラファー」となり、やがて「アーティスト」となって一丁上がりというわけだ。ホンマタカシもこの流れに乗っているように見えるのは、今回の展示で発表された写真が現代アートの文法を確実に押さえているように見えてならないからだ。もちろん、もともとホンマタカシは現代アートと親和性が高かったし、双眼鏡で写真を見せるインスタレーションなどは美術館の展覧会という条件を踏まえた現われなのだろう。けれども雪原に広がる血痕をとらえた写真は、視覚的な美しさを強調する反面、背景となる物語の説明を一切省き、結果的に何かの「痕跡」を直接的に提示することになっている。そう、これは日本の現代アートをいまも牛耳る因襲的なルールである。言葉による明快な説明より見た目の曖昧な美しさを、加算的で過剰な表現より減算的で禁欲的な表現を。痕跡や不在、欠落があるからこそ、その穴を充填しようとして鑑賞者の視線が作品に導かれるというわけだ。けれども、痕跡がつねに同時代の表現を読み解くキーワードであるとはかぎらないし、痕跡そのものが様式のひとつと化しているといえなくもない。現代アートはもっと多様であるし、現実社会はそれ以上に乱雑としている。その混沌をとらえてこそ、「ドキュメンタリー」ではなかったか。今回の展覧会は、もっと貪欲に挑戦することができたはずなのに、どうにも「置き」にいった印象が否めないのだ。

2011/01/28(金)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00011718.json l 1230325

2011年03月01日号の
artscapeレビュー