artscapeレビュー
Presentation Zen
2011年03月01日号
発行日:2009/09/04
「デザイン」とは、見た目や可視的なものだけを意味する言葉ではないということを、ガー・レイノルズ氏の著述は改めて教えてくれる。彼が提唱する〈Presentation Zen〉とは、禅の理念を旨とするプレゼンテーションのデザイン術のこと。氏は、アップル本社のマネージャー時代に、マックのユーザー団体を対象に講演やデモンストレーションを行なった豊富な経験をもつ。現在は、関西にある私立大学の准教授で、経営学やマルチメディア・プレゼンテーションを教えている、その分野に関してはいわばプロ中のプロ。著書『プレゼンテーションzen──プレゼンのデザインと伝え方に関するシンプルなアイディア』(ピアソン・エデュケーション、2009)はプレゼン以前の心構え・アプローチに始まり、構想の段階から発表までを幅広く扱う。本書はビジネス部門でベストセラーになったが、教師や学生にとっても有用だろう。続編『プレゼンテーションzenデザイン──あなたのプレゼンを強化するデザインの原則とテクニック』(ピアソン・エデュケーション、2010)は、スライドの事例を豊富に掲載し、ヴィジュアル面に特化している。そして、彼の充実したブログ(英語)──単なるプレゼン論にあらず、人生哲学についても触れられていて勇気づけられる──を読むならば、私たち誰もが可能性を秘めた主役であって、自らが常になにかを能動的につくりあげながら生きている「デザイナー」なのだということに気付かされる。いずれにおいても、ガー・レイノルズの趣旨は、視覚的プレゼンの方法をテクニカルに説くものではない。コミュニケーション・デザインの内奥を論じているのだ。[竹内有子]
2011/02/15(火)(SYNK)