artscapeレビュー
20世紀のポスター[タイポグラフィ]──デザインのちから・文字のちから
2011年03月01日号
会期:2011/01/29~2011/03/27
東京都庭園美術館[東京都]
株式会社竹尾が蒐集したポスターコレクション約3,200点のなかからタイポグラフィを扱ったもの113点を選び、展示するもの。展示は1900年代から1990年代までを、おもに「印刷技術」と「表現様式」によって4つの時代に区分し、多様なタイポグラフィとその表現の変化を追う。
出品されている作品を見てゆくと、公共団体による啓蒙活動や、デザイン団体の展覧会告知が多いことに気がつくだろう。企業のものであっても商品ではなく、イメージ広告が中心である。とくにテキスト中心のポスターにその傾向が強い。この展覧会のために選ばれたポスターがどれほど時代を代表するのかわからないが、そこからは「タイポグラフィを主体とするポスターは、モノを売るためには適していないのか」という疑問が生じる。
図録に収録されている西村美香氏の論考が、この疑問の一端を明らかにしてくれる。たとえば、本展にも出品されている亀倉雄策「ニコンSPポスター」(1957年)は、「クライアントで日本光学がついているものの広告宣伝用というよりも展示会の商品のバックを飾る壁面装飾用であって、もともとは日宣美展出品作品でデザインが先行する実験的作品であった」のである。西村氏は「今日、50年代60年代を代表する日本のポスターとして紹介されているものにはこうしたクライアントのないノンコミッションのものがずいぶんとある」とし、「クライアントもなく大衆に支持もされていないポスターが本当に優れたデザインなのであろうか」と疑問を呈する。はたして、タイポグラフィの試みはどれほど大衆に影響を与え得たのか。どれほどクライアントの要求に応え得たのか。表現に込められたデザイナーの思想、理想は十分に理解できるが、作品への評価には現実社会との接点がよく見えない。同じことが今回の展示、セレクションの方針にも言える。
会場の展示解説はシンプルだが、図録はとても充実している。作品については、デザイナー/タイトル/内容/制作年/国/クライアント/サイズ/用紙(種類・斤量)/使用書体/印刷技法(+色数、線数)という情報まで記載されている。図録の後半がデザイン史研究者による関連研究に充てられているのも特筆される。また「あなたにとってタイポグラフィとは?」という質問に対し、12人のデザイナーがそれぞれ回答を寄せている。ポスター自体はほかでも見る機会があると思うが、図録はいまのうちに入手しておくべきだろう。[新川徳彦]
2011/02/15(火)(SYNK)