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エイドリアン・フォーティ『欲望のオブジェ─デザインと社会1750年以後』

2011年03月01日号

著者:エイドリアン・フォーティ
訳:高島平語
発行日:2010/08
発行:鹿島出版会
価格:3,465円(税込)
サイズ:208×148×22mm

長らく版元切れとなっていたエイドリアン・フォーティの『欲望のオブジェ』がソフトカバーの新装版になって復刊した。単なるリプリントではない。1)新たにフォーティによるまえがきが附された(2005年版の原著に加えられたもの)。2)翻訳が一部手直しされた。3)写真図版がきれいになった。4)著者名のカナ表記が変わり、また副題も英文にあわせて変更された。5)価格が安くなり入手しやすくなった。
内容についてはいまさら語るまでもないかも知れない。原著は1986年、邦訳は1992年に刊行された。デザインの歴史を語るにあたって、フォーティは二つの対象からアプローチを試みる。ひとつは、モノをつくる企業あるいは流通・市場。もうひとつは、消費者である。陶磁器、ナイフ、家具、家電製品等々、彼は多様な商品のデザインを事例として、モノがつくられ、売られ、買われるプロセスを描き出す。中心にあるのは消費である。そこには、デザイン史で主流であったデザイナーの思想やデザイン運動の歴史はない。本書はデザイン史の名著あるいは必読書とも言われるが、刊行当時デザイン誌の大半から敵対的な反応があったという。批判の中心はまさにデザイナーの貢献を排除している点にあった。もちろん、こうした批判をフォーティは想定していたであろう。「序論」を読めば、本書がペヴスナーの系譜に連なるデザイン史の方法を批判していることは明らかだからだ。
ではなぜ彼はこのようなアプローチを試みるに至ったのか。新装版のまえがきは「私がこの本を書きはじめたときには、まだ『グッド・デザイン』というようなものがあった」ということばから始まる。フォーティが本書を書きはじめたころ、すでにデザインに対する多様な価値観が現われつつあったはずだが、歴史叙述においてはいまだモダニズムの価値観が幅をきかせており、その価値観によって選別された「優れたデザイナー」「優れたデザイン」の歴史を描くことが正しいデザイン史の方法であると考えられていたのだ。はたして「グッド・デザイン論」に依らずにモノの出現と変化の歴史的プロセスを描くことはできないのか。この問題に対する答えが本書だとフォーティはいう。
フォーティが試みた二つのアプローチ対象のうち、消費に関してはその後社会学やカルチュラル・スタディーズとの関連において発展してきたが、企業や市場とデザインとの関係はあまり人々の関心を惹かないようである。どのようなデザインが社会に現われるかという点において、企業のはたしてきた役割はデザイナーの貢献に劣らず重要だと思うのだが。[新川徳彦]

2011/02/03(木)(SYNK)

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