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釜池光夫『自動車デザイン──歴史・理論・実務』

2011年03月01日号

著者:釜池光夫
発行日:2010/10
発行:三樹書房
価格:2,940円(税込)
サイズ:258×184×20mm

製品のなかでデザインがはたしている役割が重要であるにもかかわらず、デザイン史においてほとんど取り上げられることがない分野がいくつかある。自動車のデザインもそのひとつだと思う。本書で著者も述べているとおり、自動車の歴史の本や写真集は多数出版されているものの、デザインを主体とする本はほとんどないのである。著者は三菱自動車で長らくデザイン開発に従事し、千葉大学を経て現在は芝浦工業大学で教鞭をとっている。本書は大学における自動車デザインのテキストとして書かれ、理論と実務に重きがおかれているが、タイトルにもあるとおりデザインの歴史的考察にも一章を割いているので、ここではその点に触れたい。
自動車デザインの変化をどのようにとらえ、その理由をどのように示すのか。著者は、多数ある自動車メーカーのなかからフォードを選び、そのなかでも年代毎にもっとも売れたモデルを考察し、スタイルの変化を年表にプロットする。その結果、自動車が誕生してから約100年の間に9つの基本スタイル(アイコン)があったとする。各時代における社会環境や生活スタイルの変化を背景に、人々の自動車に対する要求は変化する。その要求を実現する技術進歩があると、スタイルが大きく変化すると著者は指摘する。歴史叙述においてデザイナーの仕事を中心に据えると、特異な外観やデザイン思想を持つプロダクトに目が奪われがちであるが、もっとも売れたモデルに対象を絞ることで、著者は自動車のデザインが社会との関わりのなかで生まれ変化してきた姿を示す。
ところで、そのようなスタイルを規定する社会とは、じつはデザインがなされる時点での社会ではない。自動車のデザインは常に5年から10年先の社会をターゲットとして開発されている。「10年先のユーザーは何を欲し、その時の経済やインフラ市場はどのように変化し、そして周辺技術がどのように進歩しているかなど、ひと・もの(自動車技術)・環境の予測の上に自動車デザインが行われる」。そのためには、「自動車の歴史すなわち、現在と過去の会話を通して将来の予測が不可欠」なのだ。「デザインの方法論の基本は歴史学と言ってよいのです」と著者は書く。
著者はこれまでデザイン学会のジャーナル『デザイン学研究』に自動車デザインの歴史に関する論考をいくつも発表しており、本書第1章はそのエッセンスといえる。このような視点が実践的なテキストに盛り込まれていることはとてもすばらしいことだと思う。[新川徳彦]

2011/02/10(木)(SYNK)

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