artscapeレビュー
隠れマウンテン&ヴォルカノイズ Vol.1
2011年03月01日号
会期:2010/11/18~2011/02/20
VOLCANOISE[東京都]
鴻池朋子の未公開ドローイングを見せる展覧会。わりと底の深いケースに一枚ずつ入れたドローイングを壁や床に並べ、空間の中央に敷かれた畳の上で、来場者に作品についての会話を促す設定だ。大半は鉛筆で描かれたものだが、大作のためのラフドローイングから、それ自体で非常に完成度の高いエスキースまで、一口にドローインクといえども、その絵の幅は広い。一つひとつを丁寧に見ていくと、制作の過程を目撃できることはもちろん、新たな発見もあって、かなりおもしろい。《みみお》の原型となった初期のドローイングに見られる柔らかい描線は手塚治虫を彷彿させるし、《ナイファーライフ》の当初の構図は青木繁の《海の幸》のようだ。しかも後者の余白には鴻池による手書きの文字が残されているから、それらを目の当たりにすると、まるで鴻池の脳内活動を追跡するかのような錯覚を起こし、スリルと気恥ずかしさがないまぜになった不思議な感覚に陥る。アーティストにとって素描や習作は進んで見せるものではないのかもしれないが、鑑賞者にとってはもっともっと見たくなるものである。ただ、そこでとどまっていてはもったいない。そこからどんな言葉を紡ぎ出すことができるのか。鴻池朋子にかぎらず、アートを楽しむ醍醐味と難しさは、きっとここにある。
2011/02/20(日)(福住廉)