artscapeレビュー

愛する人

2011年03月01日号

会期:2011/01/15~2011/02/25

TOHOシネマズシャンテ[東京都]

「孤独と悔恨」。誰もが生きていくうえで必ず身につまされる厄介な代物だ。それらを克服するには「忘れる」か「強がる」か、あるいは「祈る」ことなどが考えられるが、どうあがいたところで「なかった」ことになるわけではないから、どっちにしろ人はそれらを心の底に折り畳みながら何とかやっていくしかない。この映画は、若くして産み落とした娘を養子に出してしまった悔恨にいまも苛まれる母と、その母に捨てられた孤独を胸に秘めて強くたくましく生きてきた娘が、30数年の後、それぞれのやり方で互いを探し出そうとする物語。両者の物語とは別に、もうひとつの物語を同時に描きながら、それらを一気にまとめあげていく脚本がよくできているし、何よりアネット・ベニングとナオミ・ワッツの演技がとてつもなくすばらしい。物語の設定から言えば、たしかに特殊な条件における悲劇なのかもしれない。けれども、この映画の醍醐味が私たち凡庸な観覧者のもとにしっかり届くのは、悲惨な境遇を哀れむ同情に由来しているからではなく、この母娘を演じた2人がともに不器用な人間、いや正確に言い換えれば、人間の不器用さを見事に体現しているからだろう。孤独と悔恨に苛まれる人は、他者との適度な距離を保つために身の回りに壁を打ち立てるほかない。そうやって囲い込んで孤独と悔恨を飼い慣らさなければ、自分が内側から食い破られてしまうからだ。自分で自分の首を絞めるかのような不器用さには、きっと誰もが思い当たる節があるにちがいない。

2011/02/14(月)(福住廉)

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