artscapeレビュー
2013年03月15日号のレビュー/プレビュー
岩村遠・鹿毛倫太郎 展「二大怪獣大激突 トモダチ対ツボラ」
会期:2013/02/18~2013/02/24
アートスペース虹[京都府]
岩村遠は陶芸、鹿毛倫太郎は彫刻。それぞれ異なる大学に進学し、表現を学んだ幼なじみが大学院修了を記念して二人展を開催していた。幼少期の二人の接点だったという怪獣映画をテーマにした今展。二人が生み出した大きな2体の怪獣が対決する会場には、足下にもこれらのバトルによって破壊されゆく街並みとして陶や金工の家々が散らばるようにインスタレーションされ、ギャラリーの外にまで広がっていた。それらの小さなオブジェひとつひとつもおざなりにしていないのが良い。「真剣勝負」の男気を感じる爽快感もあった展示。
2013/02/23(土)(酒井千穂)
せんだいスクール・オブ・デザイン 2012年度秋学期成果発表会|記念講演 (講師:照明デザイナー面出薫)
会期:2013/02/24
東北大学工学研究科中央棟大講義室(青葉山キャンパスセンタースクエア)[宮城県]
SSD成果発表会にて、照明デザイナーの面出薫のレクチャーが開催された。本領発揮は日没後だけに、これだけ夜景が続くスライドは珍しい(逆に言うと、建築のスライドは陰影がくっきりする昼の写真が多いことに改めて気づく)。こうして通してみると、せんだいメディアテーク、京都駅、茅野市民館、東京国際フォーラム、東京駅、京都迎賓館、長崎平和祈念館など、あれもこれも面出の仕事である。まさに名建築の夜の顔をつくったデザイナーだ。いまやシンガポールや香港にも拠点を置き、海外でも活躍している。
2013/02/24(日)(五十嵐太郎)
草津ダンス街道(2月24日:「町家でダンスをみる会」「ふしぎな衣装づくりワークショップ」)
会期:2013/02/24
マンポのとなり[滋賀県]
草津市のまちなかを舞台に50日間にわたって実施されたダンスイベント「草津ダンス街道」。1月下旬から3月9日のグランドフィナーレの公演まで、さまざまなダンスワークショッププログラムが開催されていた。市民とアーティストが協働してダンス作品を創り、発表するというこのプロジェクトは、ダンスをコミュニケーションツールに町を活性化しようと活動している市民グループ「草津ダンス道場」が行なっていたもので、総括はコンテンポラリー・ダンサーで振付家の“しげやん”こと北村成美さん。期間中は「肩こり腰痛エレガンス」「おなかひきしめウォーキング」「オヤジ倶楽部」「街道たんけん隊」など、ネーミングを口にするだけでも親しみを覚えるような数々のワークショップが行なわれていた。この日は「町家でダンスを見る会」という観覧プログラムがあり、午前中には美術家の井上信太さんによる「ふしぎな衣装づくり」ワークショップが行なわれるというので見に行った。会場は旧東海道沿いにある古民家の建物を用いたコミュニティスペース「マンポのとなり」。人数はそれほど多くはないが、ワークショップの開始時刻前に一斉に参加者が集まってきていたのにも、縫製作業など、自分の時間を割いて手伝いにきていた人たちがいたのにも少し吃驚した。和気あいあいと進む制作作業もその後に開催された舞台衣装のファッションショーも羨ましくなるほど楽し気。ダンス鑑賞会では、“しげやん”のほか小学5年生の男の子も即興のダンスライブを披露していた。とても寒い日だったが非常にエキサイティングであたたかな気分にもなったイベント。3月9日のグランドフィナーレ発表公演が観れず残念。
2013/02/24(日)(酒井千穂)
明倫ワークショップ 寺島みどり「制作室公開」
会期:2013/02/23~2013/02/24
京都芸術センター[京都府]
京都芸術センターの「制作室」をスタジオとして使用している作家、寺島みどりの2日間だけの「制作室公開」。期間中は寺島自身が会場に常時滞在、制作途中の大きな作品やドローイングなどを公開していた。このとき寺島が取り組んでいた大画面の作品は、まだどれも制作初期段階にあるものと話してくれたのだが、頭に浮かんだ風景のイメージを描き重ねているというそれらは、色彩と多様な筆致も美しく、まだずっと先だという完成と発表がとても楽しみになった。制作中の絵画を前に、アーティスト本人から作品に関することだけでなく、現在の心境や近況など、いろいろな話を聞くことができたのがとても嬉しい。じつは公開終了時刻ギリギリに駆け込んでしまったのだが見せてもらえて本当に良かった。
2013/02/24(日)(酒井千穂)
記憶写真展
会期:2013/02/16~2013/03/24
目黒区美術館[東京都]
東日本大震災以後、無名のカメラマンが街や村の日常の眺めを記録した写真が気になり出した。津波によって集落そのものが完全に消失してしまうような状況を目の当たりにすると、記憶をつなぎ止める最後の(唯一の)手段がそれらの写真であることがよくわかったからだ。
目黒美術館で開催された「記憶写真展」に出品されているのは、目黒区めぐろ歴史資料館に保存されている膨大な量の「普通の人々の写真」の一部である。今回はそのなかから主に宮崎敏子、高橋専、高松一夫という3人のアマチュアカメラマンが目黒区内で撮影した1950~70年代のネガを、デジタル出力によってプリントして展示した。「街の表情」「人々と駅」「働く人々」「工事中」「学校の子供たち」などに分類されて並んでいる写真群を目で辿っていると、体の奥に眠っていた身体感覚が引き出され、当時の街の空気感がいきいきとよみがえってくるように感じる。彼らはむろんプロフェッショナルな写真家ではないから、何か強い美意識や社会的な使命感に動かされてシャッターを切っていたわけではない。だが逆に目の前の情景を取捨選択せずに写しとることによって、細部の情報が思いがけないかたちで心を揺さぶることがある。「雪と雨」や「夕方の光景」のパートに展示されていた、日常と非日常が交錯する都市の情景など、単なるノスタルジアを超えた魅力を放っていた。
なお、目黒区に在住していた工業デザイナー、秋岡芳夫と彼のデザイン事務所KAK(カック)のメンバーたちが撮影した写真を集成した「秋岡芳夫全集1──秋岡芳夫とKAKの写真」展も同時に開催されていた。こちらは洗練されたデザイン感覚を画面構成に発揮した作品群だが、家族や日常に向けたのびやかな視線には「記憶写真展」との共通性も感じる。
2013/02/26(火)(飯沢耕太郎)