artscapeレビュー

2013年03月15日号のレビュー/プレビュー

尾仲浩二「MY FAVORITE 21」

会期:2013/02/12~2013/03/02

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

尾仲浩二からの思いがけないヴァレンタインのプレゼントといった趣の、小粋な展覧会だった。このシリーズをつくり始めたきっかけは、ずっと愛用していたコダックのカラープリント用の印画紙が2年前に製造中止になってしまったことだったという。そのとき、パリの友人が小半切サイズのその印画紙を100枚送ってくれた。そこに何をプリントしようかと考えたときに、カラープリントを始めたばかりでまだあまり上手に焼けなかった2000年頃に撮った写真群が気になり始めた。エディションを3に決め、そこから21枚の「MY FAVORITE 」を選んでプリントしたのが今回のシリーズである。
旅の途上、街はずれの人気のない片隅の光景という尾仲のスタイルは一貫している。だがそのなかでも、不機嫌そうな猫、愛嬌がありすぎてちょっと哀しげな犬、煙を吐いて航行する旅客船など、普段なら外しそうな写真をさりげなく入れてサービス精神を発揮している。気になったのは展覧会のDMや、ZEN FOTO GALLERYから刊行された同名の写真集の表紙に使われている、古臭い造花を飾ったショーウィンドウの写真。ここには「モノ」に対する尾仲の独特の嗅覚がはっきりと表われている。彼は風景を包み込んでいる空気感だけでなく、このようなどこか懐かしく、愛らしい「モノ」たちのたたずまいにも鋭敏に反応してシャッターを切っているのではないだろうか。この方向をさらに進めていけば、「MY FAVORITE THINGS」をコレクションした展示や写真集も充分に考えられるのではないかと思った。

2013/02/15(金)(飯沢耕太郎)

せんだいスクール・オブ・デザイン 2012年度秋学期学内講評会

会期:2013/02/15

KatahiraXプロジェクトルーム、ギャラリートンチク[宮城県]

せんだいスクール・オブ・デザインの学内講評会を行なう。メディア軸のスタジオの成果物は、現代美術を特集した『S-meme』5号である。今回の内容は、受講生全員による志賀理江子「螺旋海岸」展レビューとsmtの担当学芸員・清水建人さんのレクチャー、そしてスローウォークの実践という二本柱だ。そのほか、拝戸雅彦によるあいちトリエンナーレと、住友文彦の前橋、横浜、別府における地方とアートのレクチャーも収録した。そして螺旋海岸展とスローウォークの運動をヒントに、蛇腹形式を三ひねりくらいした前衛的な装幀デザインが最大の特徴である(全体を開くと一直線ではなく、S字になり、菊判一枚に)。また印刷機を活用したグラデーション印刷の手法も実験した。いずれも紙の媒体でしかできない読書の体験をもたらす試みである。

2013/02/15(金)(五十嵐太郎)

第16回文化庁メディア芸術祭

会期:2013/02/13~2013/02/24

国立新美術館[東京都]

「アート」「エンターテインメント」「マンガ」「アニメーション」という首をひねりたくなるようなジャンル別(エンターテインメントってジャンルか?)の展示。時間がないのでもっぱら「アート」部門を見る。大賞はコッド・アクトというユニットによるパフォーマンスの記録映像。数人の男が足をジャッキに固定され、ジャッキの動きとともに体を傾けながらオペラを歌ってる。みんな真剣に見ているのがおかしく、思わず笑ってしまった。これはギャグだろ。ヤン・ウォンビンは、クシャクシャにした紙くずのなかに装置を仕込み、ロボットのように動かす映像作品で新人賞を獲得。その下の床では実際にスタバの紙コップがくるくる動いていた。これはいい。震災関連の作品もいくつか目についたが、佐野友紀による4.5×7.2メートルの巨大なガレキの絵が圧巻。と思ったら写真の上から絵具でなぞったもので、ガイドブックを見ると「グラフィックアート」になっている。このガイドブックによれば「アート」部門はパフォーマンス記録映像、ロボット、映像インスタレーション、インタラクティブ・インスタレーション、デジタルフォト、ウェブなどに占められ、絵画や彫刻はなし。グラフィックアートも佐野の1点しかない。いまさらですが「メディア芸術」ってなんなの?

2013/02/15(金)(村田真)

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アーティスト・ファイル2013──現代の作家たち

会期:2013/01/23~2013/04/01

国立新美術館 企画展示室2E[東京都]

国立新美術館の学芸員たちが、それぞれ気になるアーティストたちを選出して、個展の集合のかたちで展示する企画。多ジャンルの、あまりきちんと紹介されていない作家の作品を見ることができる貴重な機会となっている。5回目となる今回は、ダレン・アーモンド(イギリス)、ヂョン・ヨンドゥ(韓国)、ナリニ・マラニ(インド)、東亭順(以下日本)、利部志穂、國安孝昌、中澤英明、志賀理江子の8人が選ばれている。
ダレン・アーモンドの瞑想的な月光の下での風景写真、ナリニ・マラニの内蔵感覚の発現と言うべきドローイングと映像など、興味深い仕事が多かったが、やはり圧巻は志賀理江子の「螺旋海岸」のインスタレーションだろう。2012年11月~13年1月にせんだいメディアテークで開催された展覧会の縮小版と言うべきもので、点数が半分以下に減った作品は、螺旋状ではなく折り重なるように不定形に並べられ、照明もフラットなものになっている。だが、観客を否応なしに巻き込んでいく彼女の作品世界の圧倒的なパワーは、ここでも充分に伝わってきた。
この展示について、三沢典丈が『東京新聞』夕刊(2013年2月15日付)に掲載した美術展評で疑義を呈している。志賀は等身大以上に引き伸ばした写真を木製の支持体に貼り付け、斜めに立てかけるインスタレーションのかたちで作品を展示した。三沢はこのやり方だと「見る者に被災地への思いを獲得させるのと引き換えに、作品と向き合う静寂な時空は犠牲になる」と書く。さらに「被災地から近い会場なら、この形式は共感として了解され、視線の妨げにはならないだろう。だが遠い東京で見る者が、被災地の様子を漠と想起するだけなら、雑念となりかねない」と書き継いでいる。
このような一見もっともらしい、安全地帯に身を置いた見方こそ、志賀が激しく忌避し、身をもって挑発しようとしているものだろう。志賀の写真は、まさに三沢が避けるべきだと提言する「物質性」を露にして見る者に襲いかかる。被災地から遠い東京での展示だからこそ、逆にその荒ぶるノイズ(雑念)を全身で受け止める態度が求められているのではないだろうか。

2013/02/16(土)(飯沢耕太郎)

超然孤独の風流遊戯 小林猶治郎展/富田有紀子展

会期:2013/02/17~2013/04/07

練馬区立美術館[東京都]

小林猶治郎は偉大な芸術家というわけではないし、美術史にも出てこないが、ちょっとおもしろい絵を描く画家。若いころ肺を病み、25歳までしか生きられないと宣告されて慶応大学を中退し、好きな絵を描いてすごしてるうちに93歳まで長生きしてしまったという、ならば人生設計ちゃんとやってればぜんぜん違う人生を歩んだかもしれない人。画業は関東大震災後の1920年代から70年近くにおよぶが、出品は初期の20~30年代が大半を占めている。輪郭や陰影のはっきりした粘着質な描法は牧野虎雄に似ているなあと思ったら、牧野に師事したことがあるそうだ。小鳥を描いた絵の上に金網をかぶせて鳥小屋に見立てたり、ゴツゴツした木の幹を四角く組んで額縁にしたり、あれこれ工夫しているのがかわいい。戦後50年代の一時期には時流に乗ったのか抽象も試みている。晩年には簡潔な絵の余白にひとこと添える文人画のような作品にいたったが、考えてみれば絵を売らなかった彼の生き方は文人画に通じるのではないか。ひょっとしたらこういう生き方こそ画家としてもっとも幸せかもしれない。で、その孫が1階で個展を開いてる富田有紀子。富田は祖父と違っておもに花や果実を拡大描写しているが、執拗なまでの描画姿勢が少し似ているかも。

2013/02/16(土)(村田真)

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2013年03月15日号の
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