artscapeレビュー

2013年03月15日号のレビュー/プレビュー

Toyonaka Joint Factory -豊中共同制作所-

会期:2013/02/05~2013/02/17

豊中市立市民ギャラリー[大阪府]

阪急豊中駅の高架下にある市民ギャラリーで、他者と関わることを制作に取り入れた表現活動を行なっているアーティストたちの作品を紹介する展覧会が開かれていた。この企画構成はアーティスト・ユニットのパラモデルの林泰彦。京都市立芸大のキャンパスを出てから向かった最終日の会場は来場者も多く、駅前の通りよりも活気のある賑やかな雰囲気だったので少し吃驚。出展者は荒木悠、平松繭子、馬場章夫・哲平 JOBBBインターネットラジオ局、野原万里絵の4組。野原の作品は先に学内展でも同じシリーズを見たのだが、この会場にはテレビニュースに登場したロシアのメドヴェージェフ首相とチョコバナナという脈絡のない二つの写真をパソコン上で組み合わせ、それをもとに描いた大きな作品が展示されていた。また、こちらでは作家自身が、洗剤をたらした水をOHPで投影しながら実験的に絵を描くという実演も行なっていた。荒木悠は、口の中に小型カメラを入れて行動、豊中の人々とのやりとりや街の風景を撮影したものを上映。平松繭子は豊中の住民や豊中で働く人々と交流し、それぞれの思い出の品物を借りてきて展示していた。ユニークだったのは、一家で記事や番組を作成し、自宅で収録した番組を週に一度更新、インターネットを通じて世界中に発信しているという豊中市在住の馬場章夫・哲平(親子)のJOBBBインターネットラジオ局の展示。自宅のスタジオをそのまま移したこの会場では、阪神大震災の映像、インドの旅の映像等、3本が上映されていたのだが、会期中は仮設スタジオとして来場者飛び入り出演の収録も行なわれていたよう。どれも面白い。市民ギャラリーという場所に新鮮な視線と刺激が吹き込まれたのを感じた展覧会。内容や会場全体の和やかな雰囲気もさることながら、興味深気に作品や制作について質問をする女性に一所懸命に答えている野原万里絵の姿が印象に残った。


会場風景


上映されているのは口の中にカメラを仕込んで撮影した荒木悠の映像作品

2013/02/17(日)(酒井千穂)

小林紀晴「kemonomichi」

会期:2013/02/13~2013/02/26

銀座ニコンサロン[東京都]

小林紀晴の『メモワール 写真家・古屋誠一との二〇年』(集英社)は、人物ドキュメントの力作だった。投身自殺した妻の記憶を、写真集や写真展を通じて執拗に再構築し続ける古屋誠一を、長期間にわたって取材し続けてまとめたものだが、その過程で小林自身も得るところが大きかったのではないか。写真家に否応なしにつきまとう、すべてを見尽くしたいという「呪われた眼」を自覚したこともそうだが、写真を撮影し、選択し、構成する方法論においても、古屋の影響を大きく受けたのではないかと思う。古屋が「メモワール」のシリーズのなかで試みた、インパクトの強い隠喩的、象徴的なイメージを日常的な場面の写真に差し挟むことで「物語」に深みや奥行きを与えるやり方を、小林もしっかりと学びとったことが、今回の「kemonomichi」展からもしっかりと伝わってきた。
本展は昨年9~11月にキヤノンギャラリーSで開催された「遠くから来た舟」の延長上にあるものだろう。前回の個展では北海道から沖縄まで全国各地の聖地を訪ね歩き、祭礼や宗教儀式を中心に撮影したが、今回は彼の故郷である長野県諏訪地方に焦点を絞っている。諏訪には七年に一度の御柱祭のほかに春の御頭祭があり、「七十五頭の鹿の首が生け贄として捧げられる」のだという。小林は諏訪を撮り歩くうちに、この地に出雲から来た新しい神、ミシャグチと称されるそれ以前の土着の神、さらに最古層の縄文時代の信仰という三層構造があることに気がつく。御柱祭や御頭祭では、その構造が生々しく露呈してくるのだ。特に強調されているのは、熊、鹿、蛇、雉などの動物や鳥などの形象の持つ象徴的な喚起力だ。カラーとモノクロームを混在させ、出征兵士や御柱祭の古写真の複写なども効果的に使って、スケールの大きな時空の表現を実現していた。
なお、冬青社から同名の写真集も刊行されている。また、東京・茅場町の森岡書店では、古屋誠一を2000~2010年にかけて撮影したポートレートを集成した「背中を追って 写真家・古屋誠一への旅」(2月18日~23日)が開催された。

2013/02/19(火)(飯沢耕太郎)

生誕百年記念 塔本シスコはキャンバスを耕す

会期:2013/02/15~2013/02/27

くずはアートギャラリー[大阪府]

「枚方市平和の日」記念事業として開催されていた塔本シスコ(1913-2005)の生誕100年記念展。以前、7回忌展が開催されていた京都の画廊でこのポスターを見かけ、枚方市駅前にあるショッピングモール内のギャラリーに足を運んだ。48歳のときに脳溢血で倒れ、その後リハビリをかねて独学で絵を描き始めたという塔本シスコ。数年前、初めて作品を見たとき私はその画面の圧倒的な力強さと美しさ、闊達な趣きに魅了されてしまった。今回会場に展示されていたのは、130×162センチの大きな油彩画や、箱や瓶に描かれた作品など48点。作品の多くには身近な草花や動物、鳥、虫、親しい人々などが描かれているのだが、絵の具を分厚く載せるような筆跡、明るく鮮やかな色彩など、画面はどれも、もの凄い迫力。これまで私はこんなにも大きな作品を見たことがなかったのだが、ほとばしるような活力と生命感に溢れた作品群に再び打たれるような感動を覚えた。訪れたときは来場者もまばらだったのだが、広々とした空間で静かに堪能できたのが嬉しい。


左=展示風景
右=塔本シスコ《枚方市総合体育館前のコスモス畑》

2013/02/20(水)(酒井千穂)

久保文音 展

会期:2013/02/19~2013/02/24

ギャラリーモーニング[京都府]

作家は京都精華大学で日本画を専攻する4年生。京都市立美術館で開催されていた大学の卒業制作展に時期を合わせて個展を開いていた。展示されていたのは女性像や風景、野菜などを描いた作品。岩絵具や鉛筆のほか、コーヒーも用いて描いているというそれらの作品は、柔らかな色彩と細やかな描線が特徴で、エッチングの銅版画のような趣きもあった。よく見るとドレスのレースや背景の模様など、画面の一部は絵の具を盛り上げるようにして描かれていて、それもかなり厚みがあるのだが、少し離れて見るとそれもあまり分らないのが面白い。一見、繊細なイメージとのギャップが魅力的だった。


左=久保文音《マチビト》
右=展示風景

2013/02/21(木)(酒井千穂)

ここに、建築は、可能か 第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館帰国展

会期:2013/01/18~2013/03/23

TOTOギャラリー・間[東京都]

ギャラリー間の「ここに、建築は、可能か」展を訪れた。大量のスタディ模型など、大がかりなインスタレーション以外のコンテンツは、ほぼすべてを東京会場でも見ることができ、内容的にはヴェネチアビエンナーレ国際建築展2012の完全移植と言える。ただし、オリジナルがあの使いにくいと言われる日本館を巧みに使い倒した空間展示のインスタレーションだっただけに、場所を変えたときの違いはやはり気になってしまう。例えば、四面の壁で囲まれていた畠山直哉による陸前高田のパノラマ写真が、ここでは一直線に展開している。

2013/02/22(金)(五十嵐太郎)

2013年03月15日号の
artscapeレビュー