artscapeレビュー

2013年03月15日号のレビュー/プレビュー

東京画II──心の風景のあやもよう

会期:2013/02/24~2013/03/07

東京都美術館[東京都]

栃木からトンボ返りで上野へ。「東京画」はトーキョーワンダーサイト主催の展覧会なのに、なんで自分とこ(本郷)でやらないんだと思うが、きっと都美館側からオファーが来て同じ都の組織として断れなかったんじゃないかと勝手に推測。そんな事情はどうでもいい。桑久保徹は西洋名画が額縁つきでズラッと並んだ海岸風景、ほか数点の展示。これはすばらしい。私が裕福なコレクターだったら迷わず買い占めるだろう。千葉正也は相変わらず白い手づくり人形を風景のなかに置いて描いているが、おもしろいのはキャンバスを壁にかけず、彫刻みたいに台座の上に立てていること。だから裏が丸見えで、木枠は自作であることがわかる。佐藤翠はカーペット、靴箱、クローゼットなど四角い家具調度をそのまま四角いキャンバスに収めた絵。しかしカーペットを描こうと思うか? それを壁に飾るか? この3人は絵画というメディアに対してきわめて自覚的、かつ攻撃的だ。一方、熊野海は鮮やかなストライプ模様を背景に、人の集う海岸に核爆発や彗星墜落のようなカタストロフィを描き出す。未来を予言しているとはいわないが、モチーフも色彩もにぎやかで、まさに旬の絵画。いまどきの日本の絵画の最良部分がここに集結している。

2013/02/23(土)(村田真)

東北芸術工科大学卒業・修了展

会期:2013/02/23~2013/02/27

東京都美術館[東京都]

隣の部屋にはたくさんの若者が集ってるので「東京画」の続きかと思ったら、素人っぽい彫刻が並んでいて、なぜか山口晃と山下裕二が対談している。どうやら別の展覧会にまぎれ込んだらしい。そこに彫刻家の深井聡一郎が来て、これは東北芸工大の卒展で、自分も教えているという。そうか、ついでだから見ていくか。終了間際にさっと回った限りで気になった作品を挙げると、小さなキャンバスにパステルカラーの絵具を盛り上げた高田幸平の小品、いまどきありがちな絵ながらそそられる藤倉麻美の物語画、それに酒見浩司の版画による抽象風景。

2013/02/23(土)(村田真)

アジアをつなぐ──境界を生きる女たち 1984-2012

会期:2013/01/26~2013/03/24

栃木県立美術館[栃木県]

今日は栃木2連発。県立美術館の「アジアをつなぐ」は、これまで何度か開催して来た「女性展」の延長上に位置づけられるだろう。絵画あり彫刻あり、インスタレーション、写真、映像なんでもありなので展覧会としてまとまりに欠けそうだが、そこは「アジア」と「女性」がつなぎ止めてくれるので、ある意味安心して見ることができる。しかしそれは、見るときの心構えが「女性」「アジア」にシフトしているということであり、いいかえればフィルターを通して見ざるをえないということだ。では、フィルターを解除してもういちどながめ直すと、つまり「女性」も「アジア」も忘れて作品本位で見てみると、なにが残るか。イースギョンの陶器の破片を金継ぎでつなぎ合わせたオブジェ、ジョン・ジョンヨプの何万個もの小豆の肖像、ソン・ヒョンスク(過去何度か作品を見たが、女性とは思わなかった)の最小限の筆致……。みんな韓国人だった。アジアの中ではレベルが突出しているなあ。

2013/02/23(土)(村田真)

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ミニマル/ポストミニマル──1970年代以降の絵画と彫刻

会期:2013/02/24~2013/04/07

宇都宮美術館[栃木県]

県立美術館から宇都宮美術館に行くには、いったんバスで駅に戻り、もういちどバスに乗り換えなければならないのだが、本数が少ないので1本逃すと1時間くらい待たなければならない。実際1本逃してしまったためエライ目に会った。まあいいや。「ミニマル/ポストミニマル」は、70年代とそれ以降にスポットを当てた谷新館長(よく間違えられるらしいが、谷・新館長ではなく、谷新・館長)みずから渾身の力をふりしぼった(たぶん)企画。70年代といえば先ごろ埼玉近美でも「日本の70年代」展が開かれたばかりだが、埼玉がサブカルチャーにかなりのスペースを割いていたのに対し、宇都宮は美術のみ、というより絵画・彫刻のみ10人の作家に絞り込んだため、日本の現代美術の変遷がよくわかる展示だった。出品は、堀浩哉、辰野登恵子、中村一美、戸谷成雄、遠藤利克といった面々。展示は作家別でも時代順でもなく、70~80年代とか90年代とか大きな時代のくくりのなかで作家ごとに並べているので(だから同じ作家が何度も出てくる)、通時的にも共時的にもわかりやすい構成となっている。だいたいみんな70年代にミニマリズム(またはもの派)の桎梏・葛藤から出発し、80年代以降に表現性や象徴性を獲得し、近年それを深化させている。もう4半世紀ほど前、西武美術館で「もの派とポストもの派の展開」という展覧会が開かれたが、「ポストミニマル」は「ポストもの派」と重なる部分が多く、今回は「その後のポストもの派の展開」展といいかえてもいいくらいだ。そこでひとつわからないのが、なぜ90年代以降に登場した荒井経や薄久保香を入れたのかということ。それ以前の世代との比較対象としてはありかもしれないが、唐突感は否めない。ともあれ、70年代に批評家としてデビューした谷新(当時は「たにあらた」の表記だった)館長の総括・集大成ともいうべき力作。

2013/02/23(土)(村田真)

京都精華大学 卒業・修了制作展

会期:2013/02/20~2013/02/24

京都市美術館本館・別館[京都府]

京都市美術館で開催された精華大学の芸術学部、デザイン学部の卒業制作展。最近は大学のキャンパスで開催されることも多くなったが、学生たちの高揚感と緊張感に包まれた美術館の卒展の雰囲気は好きだ。芸術学部のほうで記憶に残ったのは映像学科・山本由紀の《ゆらぎ》というサウンドアートのインスタレーション。いくつもの小さなリングが空中にぶら下がっているのだが、それらを軽く引っぱり手を離すと、モビール状に糸で繋がっている金属棒が床に置かれたグラスに当たり、涼やかな音が鳴る仕掛けになっていた。単純だが細部にわたって美しいのが良い。数日前に個展を見た久保文音の女性像を描いた大画面の絵画も力作。絵の具の重ね方は入念だが、多様な筆致と画材を巧みに使った表現が独特の趣で見入ってしまった。デザイン学部では、プロダクトデザイン学科で完成度の高い作品をいくつか見ることができたのが嬉しい。気に入ったのは野崎珠江の《つながレタープロジェクト》。この日は本人が「実演」という看板を出してワークショップを行なっていた。参加者が野崎が用意した3枚綴りのハガキの1枚にメッセージを書き、封筒に入れて誰かに出すという、ただそれだけなのだが、これは最終的には、参加者が手紙を出した相手から野崎にアンケートの1枚が返ってくる(かも知れない)というプログラムになっている。ゲームのようでもあるが、用意されていたオリジナルの切手やレターセット、解説カードもよくできていて単純に楽しい。誰かとのやりとりのなかでも少なくなった、待って過ごすという時間にも思いがめぐる。


久保文音《オモイデノツヅキ》



左=インテリアプロダクトデザイン学科の野崎珠江《つながレタープロジェクト》
右=同、オリジナルの切手が貼られて配布された三連のポストカード

2013/02/23(土)(酒井千穂)

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