artscapeレビュー
2013年09月01日号のレビュー/プレビュー
第91回ニューヨークADC賞入賞作品展
会期:2013/08/31~2013/11/24
印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]
ニューヨークを拠点として、1920年に創立されたアートディレクターズ・クラブが公募する広告賞の第91回目の受賞作品展。海外からの応募も多数あり、日本の広告関係者にとっても重要な賞のひとつである。昨年まではアド・ミュージアム東京で開催されていたが、今年は印刷博物館P&Pギャラリーに会場を移して開催されている。賞は分野別に七つの部門から構成され、ゴールドキューブ、シルバーキューブ、ブロンズキューブのほか、その年のもっとも革新的な作品にはブラックキューブが与えられる。今回の作品展では、ブラックキューブの2作品を含め49点を展示。会場が印刷博物館ということもあり、展示には受賞作品のなかから紙や印刷に関連した作品の比率が高くなっている。気になった作品は、ガリ版刷りの《2011年手づくりカレンダー》(アイルクリエイティブ)、プリントゴッコによる《白馬村観光局ポスター》(新村則人デザイン事務所)、レーザーカッターで海苔に和の文様を切り抜いた《Design NORI(デザイン海苔)》(I&S BBDO)など、手触りを感じる作品。ロッカールームは受賞作品のひとつ、《マスキングテープ「mt」》で装飾されている。展覧会を担当した印刷博物館の本田真紀子学芸員によれば、パネル展示にとどまることなく、できるかぎり実物で見せられるものを集めたとのことである。ところで、第91回ニューヨークADC賞の受賞決定は1年以上前の2012年4月、受賞作品の制作は2年以上前である。展覧会企画者の都合ではどうにもならないことだとは思うが、作品の鮮度を考えると、このタイムラグがもう少し短くなると良いのだが。[新川徳彦]
2013/08/30(金)(SYNK)
プレビュー:黒沢美香&ダンサーズの『食事の計画』、奥山ばらば(大駱駝艦)『磔(ハリツケ)』、イデビアン・クルー『麻痺 引き出し 嫉妬』
artscapeの企画で、今月のレビューでも取り上げた吾妻橋ダンスクロッシングの桜井圭介さんと話をした。その内容は、今秋中に本サイトにてアップされると思うのでそのときに読んでもらいたいのだけれど、あらためて桜井さんと話し、考えさせられたのは、ぼくのフォローしているダンスの分野で、この10年の間になにか真新しい試みというのはなされたのだろうか?ということだった。この10年に目立ったのは、真新しさよりも、一種の復古的ともいうべき伝統へ回帰する傾向だったように思う。いや、回帰でもなくて、多くのダンス作家たちは淡々と過去のダンスが獲得した価値を再生産し続けてきただけなのかもしれない。ただ「回帰」の言葉をつい口にしてしまうのは、吾妻橋のような試みがあったからだ。新奇さを競う以上にじつは「ダンスってなんだろう?」という本質的な問いを投げ続けてきた吾妻橋。これが「ファイナル」を迎えた。けれどもこの問い自体は、消えることはない。個々人には、「わたしはこれまでこんな試みをした」という自負があるかも知れない。けれども、その努力が個人のトリヴィアルな課題の解決に終始しないかたちで、いわばダンスなるもの(ひとが抱くダンスへの思い込み)の更新に役立ったのかを考えてみるべきだ。そもそもダンスにはとてつもない力があるはずだ。ダンスは(音楽と、あるいはパートナーと、あるいは観客の思いと)合わせるゲームであるだけではなくて、合わせないことから始まる事態へ突き進むゲームでもある。古典や伝統を放擲する必要もないけれど、いまぼくたちが生きている諸状況に合わせたり合わせなかったりすることで、ぼくたちを束ねたり荒野へ解き放ったりしながら、ダンスのもっている潜在的な力を、もっと真剣に試すべきではないだろうか……と熱くなってしまいましたが、すいません、ここはプレビューの場でした。今月は黒沢美香&ダンサーズの『食事の計画』(9月1日、8日、16日、29日、横浜市大倉山記念館ホール)、奥山ばらば(大駱駝艦)『磔(ハリツケ)』(9月13日~21日、壺中天)、あと東京圏では来月初旬の上演だけれど、イデビアン・クルー『麻痺 引き出し 嫉妬』([北九州公演]9月28日~29日、北九州芸術劇場、[神奈川公演]10月5日~7日、神奈川芸術劇場)をレコメンドします。あれ、今月ちょっといいじゃないですか! この3組の公演を見に行けば、ぼくが上記したことなんて、ただの思い過ごしだってことになるかもしれません。
2013/09/02(月)(木村覚)