artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎

会期:2014/09/13~2014/11/09

上野の森美術館[東京都]

先日見た「華麗なるジャポニスム展」もこの「北斎展」も、10月から三菱一号館で始まる「ミレー展」も、すべてボストン美術館の所蔵品展。なんでこんなにボストン美術館ばかりから借りるのかと思ったら、みんな名古屋ボストン美術館で開かれる展覧会の巡回展なのだ。入口を入ると正面の壁に北斎の浮世絵をアニメ化した映像が映し出される。いいのかこんなにイジって。壁はコーナーごとに少しずつ異なる色の紙を帯状に貼り、その上に絵を展示している。2階には茶室を模した休憩所が設けられ、北斎の描いた富士山の拡大図を見ながら休める仕組みだ。浮世絵は刷り物だから基本的に小さいし、どれもこれも似たようなもんだし、素材が紙なので照明を落としてるため、見てるうちに飽きてくる。その退屈感を打ち負かし、少しでも楽しませようという努力がうかがえる。しかしなんだな、浮世絵なんてえもんはひとり片手にもって楽しむもんでな、美術館なんぞに小ぎれいに並べてありがたく鑑賞させていただくような代物じゃねえんだよ。わーったか、このスットコドッコイ。と北斎は申しております。

2014/09/12(金)(村田真)

向山裕展「砂の原野・霊告」

会期:2014/09/08~2014/09/27

ギャルリー東京ユマニテ[東京都]

カツオノエボシ、エリンギ、ゾウリエビ、カイダコといった際どい生物たちを、ときに標本風に、ときに情景描写入りでていねいに描いている。もっとポピュラーな生物たち、たとえばサンマはコスモスの花に囲まれて、ニワトリは温泉から首だけ出して、羽化するセミは2匹並べて、ちょっと幻想的に描出。生物だけかと思ったらそうでもない。爆弾でも落としたように海面にしぶきが上がっていたり、潜水艦が潜んでるかのように海中から不気味な光が見えたり、なにか不穏な気配を感じさせる海景画もある。問題は、珍しい生物やありえない風景をリアルに描写することではなく、それらを依代とするカミを「現像」することだという。近年あまり見ないタイプの画家であり、これからも目が離せない。

2014/09/12(金)(村田真)

Reborn

会期:2014/09/06~2014/10/04

木之庄企畫[東京都]

リニューアル記念展として、少女チック、マンガチックないまどきの絵画を集めている。金ピカの祭壇画風支持体に描かれた天使や聖人がマンガな森洋史、ロウソクの絵ばかり出してる宏二郎など計7人。お目当ての松山賢は少女ものかと思ったら、縄文土器や土偶を擬人化した絵も出していて、一頭地を抜いている。

2014/09/12(金)(村田真)

杉本博司「ON THE BEACH」

会期:2014/08/21~2014/09/30

ギャラリー小柳[東京都]

会場に入ると大きめの紙に黒々と抽象的な形態が見えたので、最初エッチングかドローイングかと思ったら、よく見ると砂浜に打ち上げられた機械の一部のようなものをプリントした写真だった。そりゃ杉本さんの個展だから写真だろうけど、最近はなにやるかわからないからな。砂浜に打ち上げられた機械の一部は自動車の部品だそうで、「海景」シリーズを撮ってるときに気づき、20年以上も撮りためてきたという。今年パリで初めて公開し、写真集『ON THE BEACH』も刊行。遠景のついでに近景も撮ってきて、それも作品にしちゃうなんて、さすがというほかない。でも杉本がここに見ているのは、永遠に続きそうな海のリズムに対する文明のはかなさであり、時間の腐食ということだろう。ギャラリーの入口正面に自動車と同じ鉄でつくられた刀剣を据えたのも、時間を意識してもらいたいがため。

2014/09/12(金)(村田真)

建築の皮膚と体温―イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界―展

会期:2014/09/04~2014/11/22

LIXILギャラリー[東京都]

イタリアモダンデザインの父とも呼ばれたジオ・ポンティを紹介する展示。導入部に「建築は、外に対して厳しく、内に対して優しくなければならない」みたいなことが書かれていたが、この「堅牢」かつ「快適」という両立しにくい命題を、タイルという素材とデザインによって解決しようとしたのがジオ・ポンティだった。彼の建築に感じられる「皮膚感覚」は、モダニストでありながらモダニズムを超えたところに生まれてきたものだということがわかる。

2014/09/12(金)(村田真)

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