artscapeレビュー
2014年10月15日号のレビュー/プレビュー
リー・ミンウェイとその関係展
会期:2014/09/20~2015/01/04
森美術館[東京都]
台湾出身でニューヨーク在住のアーティスト、リー・ミンウェイの個展。と思ったらジョン・ケージ、イヴ・クライン、小沢剛らの作品もある。リーひとりじゃ埋めきれなかった、というわけではなく、リーの作品をよりよく理解するための助っ人として参加してるようだ。裏返せばリーの作品だけじゃ理解に苦しむってことらしい。彼の作品は「リレーショナルアート」とか「関係性の美学」とか呼ばれるもので、観客が参加することで初めて成り立つ作品だが、作品を完成させることより、そのプロセスで人々と会話したり、さまざまな関係性を築くことを目的とする。たとえば《プロジェクト・繕う》では、観客が持ち込んだ衣類をアーティストやホストが会話しながら繕い、壁面の糸とつなげていく。この場合、衣服を繕うことが目的ではなく、繕う行為をきっかけに相手とコミュニケーションし、そのつながりを視覚化してみせることが重要なのだ。また《ひろがる花園》は、細長い容器に差した花を観客が受け取り、それを帰り道に見知らぬ人にあげるというもの。こうして未知の人と知り合い、友だちの輪が広がっていく……と書きながらむなしい気分に襲われる。いったいだれがそんなゲームに参加するのだろう。見知らぬ他人とコミュニケーションしたい人間なんているのか? よっぽど寂しいのかノーテンキなのか、いずれにせよぼくはお友だちになりたくないなあ。まあそれは趣味の問題だからいいとして、興味深いのはこういう「作品」を美術館で紹介する時代になったということだ。そもそもリレーショナルアートなんてものは、美術館という制度内では実現できない生のコミュニケーションを求めて外の世界に広がりを見せてきたはず。それがちゃっかり美術館に収まってしまうというのはいかがなものか。だいたい美術館でのコミュニケーションなんて出来レースみたいなもんだし。こんな展覧会を企画した美術館も美術館だが、そんな話に乗ったアーティストもアーティストだ。ま、それだけにチャレンジングな企画だっていえないこともないけど。
2014/09/19(金)(村田真)
海老優子展「鳥が鳴いたら3」
会期:2014/09/09~2014/09/21
ギャラリーモーニング[京都府]
海老優子が近年より発表している同名タイトルのシリーズ3回目の個展。屋外の風景、ベッドや洞穴、高い山や塔のある光景などをモチーフにした海老の絵画作品は、夢と現実の間を彷徨うような雰囲気が印象深く、記憶に焼きつく。今回発表された作品はキャンバスではなく紙に描いたもので、継ぎ足した紙がギャラリーの三壁面の左右上下に展開し、風景が物語のように連なるという大きなインスタレーションであった。曲がりくねった山道に人物や動物などは描かれておらず、余白部分も多いその作品は静寂さを湛えているが、ところどころの大きく流れるような筆致とかすれた絵の具の色も不安定な表情で、部分ごとにもこちらの意識を引き寄せる。離れてみると視線は道の先へと導かれるのだが、遠望の開放性とはうらはらに緑濃い三方の山に囲まれた閉塞性という正反対の効果も同時に感じる作品だった。静謐だが、不穏な兆しを連想させる不思議な魅力。今後もこのシリーズが気になる。
会場風景
2014/09/19(金)(酒井千穂)
水野悠衣個展 One Scene
会期:2014/09/16~2014/09/21
KUNST ARZT[京都府]
モザイク映像のようなイメージの色面で構成された抽象絵画作品が展示されていた。一点ずつのイメージには実際にモチーフとしたものがあるそうなのだが、水野はその具体性を削ぎ落とした表現に取り組んでいる。麻紙、水干絵具、雲母、胡粉など、日本画の手法で描かれているこのシリーズ、画面に描かれたひとつずつの要素は並列しているが、等間隔のグリッド状というわけでもなく、反復や連続のなかに、図と地を想像させる余地があり、物事が移り変わっていく時間の連想を掻き立てるのが素敵だ。画材の特性も活きた趣きとあじわいのある美しい作品だった。
2014/09/19(金)(酒井千穂)
MAMプロジェクト022 ヤコブ・キルケゴール
会期:2014/09/20~2015/01/04
森美術館[東京都]
福島の自然を山水画のように縦長の画面に映し出すサウンド・ビデオ・インスタレーション。また福島ネタかよ。
2014/09/19(金)(村田真)
あるアホの一生─田村画廊ノート─
会期:2014/09/15~2014/09/20
ステップスギャラリー[東京都]
70年代に絶大なる信頼を誇った貸し画廊が神田にあった。田村画廊だ。そのオーナーが山岸信郎さん(2008年に死去)。後に真木画廊と駒井画廊を近くに開き、田村は移転したり真木と合併したりしたのでややこしいが(私事だが、80年代にこれらの画廊に敬意を表して「駒井真木」のペンネームを使ったことがある)、とにかく70~80年代に台頭したもの派、ポストもの派、ニューウェイヴの連中で山岸さんのお世話にならなかった人はいないといっていいほど「大きな人」だった。貸し画廊が単に作家から金をとって場所を貸す不動産屋ではなく、作家を育て、助言し、企画展に推薦し、海外にも紹介するという大切な役割を担うオルタナティヴなインスティテュートであったことは、山岸さんがいなければ認識されなかったに違いない。そんな山岸さんと田村画廊を巡る資料展。出品は安斎重男さんの写真を中心に、山岸さんの自筆原稿のコピー、3つの画廊の展覧会歴、カタログなど。
2014/09/20(土)(村田真)