artscapeレビュー

2014年10月15日号のレビュー/プレビュー

第14回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展(1日目)

会期:2014/06/07~2014/11/23

ジャルディーニ地区[イタリア、ヴェネツィア]

ディレクターのレム・コールハースが強い指導体制を発揮したので、もっと徹底した100年のリサーチを全館、全会場でやるのかと思いきや、そうでもないエリアや守らない館も少なくない。やはりこれは研究書ではなく、モノを見せる「展覧会」である。なかには単調な年表だけの展示もあったが、切り口がない見せ方は辛い。伊東豊雄が改修を担当し、もとの姿に戻った日本館は、レムの言いつけを守りつつ、独自性をだし、コンセプト通りの日本建築の倉を実現していた。中谷礼仁の70年代ラブの方向性と、太田佳代子の「OMAスタイルわかってます」という展示手法を融合させながら、膨大な資料とモノを持ち込む。一部の作品は、「戦後日本住宅伝説」展ともかぶる。


日本館展示風景

ジャルディーニの各国パヴィリオンでは、オーストリア館がもっとも印象的だった。ジャン・ニコラ・ルイ・デュランの「比較」のごとく、1/500のスケールで世界196ヶ国の国会議事堂の模型を壁に張るというシンプルな手法である。個別の説明はなくとも、権力の場のサイズと形態の比較から、想像以上に様々なことを読みとれる。また金獅子賞となった韓国館は、境界線、北朝鮮の建築と都市、ユートピア像、戦後の歴史、金壽根など、盛りだくさんの内容である。一度訪れたことがあるので、平壌の建築は大体見ていたが、あれは貴重な経験だった。ここの国立美術博物館も想像を絶する内容で、この大ネタも、一度ビエンナーレの美術展で使えるのではないかと思う。その他、「ぼくの伯父さん」模型が楽しいフランス館、アフリカへの協力を紹介する北欧館、バケマの試みを展示するオランダ館、国外の仕事をとりあげるアメリカ館、いつもセンスがいいベルギー館、インテリアで切りとるスペイン館、見本市に見立てたロシア館、砂に図面を描くイスラエル館など、多様な展示が行われていた。


左:オーストリア館展示風景 右:韓国館展示風景


左:フランス館展示風景 右:ロシア館展示風景

部材ごとの部屋をもうけたイタリア館におけるエレメンツは、一部屋で一要素だと、すべてを網羅することは当然不可能で、視点が明快な展示が印象に残る。例えば、バルコニーと政治空間、あるいはスロープと二人の建築家などだ。また実物で展示されたモノそれ自体がとにかく面白いものは楽しい。イントロダクションとなる部屋では、クリスチャン・マークレーの「時計」のような映画から部材のシーンを編集した映像作品もあった。ただし、エレメンツのパートでは、展示でできることと、カタログでできることの距離というか、メディアの違いが気になる。ともあれ、妹島和世がディレクターをつとめた2010年が、空間体験型、一作家=一部屋でアート的だったのと、今回のコールハースのリサーチ型、すなわち反作家性は、ビエンナーレにおける展示手法の二極を示したと言えるだろう。


イタリア館展示風景(記事左上の写真も)

2014/09/16(火)(五十嵐太郎)

松山賢「ミニミニスキャット」

会期:2014/09/03~2014/09/26

NAKAMEGURO SPACE M[東京都]

久々にエロ満開の松山作品を見た。といっても旧作だが。ギャラリー内はいくつかに仕切られて壁紙が貼られ、なかに貧乳と巨乳のマネキンが鎮座している。80年代を風靡した「のぞき部屋」だろうか。そのマネキンをポスター化した作品や壁紙のパターンを描いた絵も飾ってある。あとはオッパイの絵と女性ヌードのトルソ。現在の絵画意識の高い知的な作品もいいが、こういうドエロ満開の旧作も捨てがたい。不思議なのは新旧の作品が違和感なくつながってることだ。

2014/09/16(火)(村田真)

The Act of Painting

会期:2014/09/16~2014/09/30

Casaさかのうえ[神奈川県]

Casaさかのうえは、慶応大学日吉校舎の坂の下(坂はもっと下まで続くので名称は「さかのうえ」)の脇道を入った場所に建つ、1軒家の小さなギャラリー。展示空間の前には中庭があり、オフィス空間も階段を効果的に使って広々と見せるなど、なかなかユニークな建築だ。ここで展示しているのは、オランダのマーストリヒトを中心に活動する「The Act of Painting」という抽象絵画のグループ。そのなかに日本人の中村眞弥子がいるため、日本にも巡回することになったという。日本展には門田光雅も加わり、計16人が参加。ギャラリーは5坪程度の小さな空間ながら天井は高く、おまけに下方に窓があったりするので、みんな見上げる高さに作品を展示している。これが具象だと難があるが、抽象の小品だと違和感がない。再び抽象が注目を集めているのは世界共通の現象だろうか。

2014/09/16(火)(村田真)

島尾伸三「Lesions/ じくじく」

会期:2014/09/16~2014/09/27

The White[東京都]

島尾伸三の展覧会を見るのはかなりひさしぶりだ。ここ数年,以前の精力的な出版、展示活動のペースがやや鈍っているように感じていたのだが、今回の東京・神保町のギャラリー、The Whiteでの個展を見て、いかにも彼らしい独特の肌触りを備えた写真の世界が健在なのを確認することができた。
今回の出品作は、2007年から雑誌『野性時代』に、武田花と交互に隔月で連載していたシリーズを中心に選ばれている。タイトルの「じくじく」というのは、武田の「うじうじ」というタイトルに「対抗して」つけたものだという。「どうしてなのか、いつだって気分が高揚しないまま旅行を終えてしまいます。夕焼けさえ地獄の炎に見えるのです」という展覧会に寄せたコメントを読んでも、眼前の光景の片隅へ片隅へと視線を誘う、ひねりを効かせたカメラワークからも、島尾がたしかに瘡蓋から膿が「じくじく」と滲み出てくるような日常性に、徹底してこだわりつつシャッターを切っていることがよくわかる。だがそれらの写真を見続けていると、その自虐的な視線が何かを突き抜けて、軽やかな涅槃のような領域に達しつつあるのではないかとも思えてくる。島尾の写真は、自分で思っているほどネガティブなものではなく、見る者に奇妙な安らぎを与えてくれるのではないだろうか。今回は旅の写真が多いので余計そう感じるのかもしれないが、ある被写体から次の被写体へと、自然体ですっと眼が動いていく感触が、とても心地よく伝わってきた。
残念ながら展示には間に合わなかったのだが、12月頃に同名の「カラー240ページ」の写真集が刊行される予定だという。出来栄えが楽しみだ。

2014/09/17(水)(飯沢耕太郎)

河合晋平博物館 ヴォルガノーチル展

会期:2014/09/17~2014/09/30

高島屋大阪店ギャラリーNEXT[大阪府]

ロールパン、スプーン、ビニール製のチューブ、電球など、身の回りのものを素材に用い、”芸術環境に生息し進化する生命体に見立てた「存在物」という作品を発表し続けている河合晋平。今回新たな「生命体」として、廃棄ビデオテープのロールを用いた「存在物」《ヴォルガノーチル》が大阪の百貨店内のギャラリーで発表された。今展は関西テレビと障碍者支援施設「みずのき」による「廃棄テープリサイクル&アートリユースプロジェクト」という企画の展覧会で、作品の素材となったビデオテープは、同テレビ局がかつて放送映像の保存に使っていた廃品であった。アンモナイトやオウムガイなどの化石を思わせる《ヴォルガノーチル》267点が整然と壁面に並列した空間は、タッチライトで作品各々が光るのも奇麗で、おしゃれなショールームさながらの統一感がある。それだけに遠目にはどれも同じように見えるのだが、近づいてみるとそれぞれのロールの襞や着彩の様子は微妙に異なるのが分かる。標本や図鑑を眺めるようで見れば見るほど各々を見比べるのが面白くなる作品だった。数の多さもさることながら、一点一点、細部の表現に徹底的にこだわる河合の制作。毎回、感心というよりもあきれるほどだが、その職人的な制作への姿勢もかっこいい。次にどんな「存在物」が誕生するのかまた楽しみだ。


展示風景

2014/09/17(水)(酒井千穂)

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