artscapeレビュー
2014年10月15日号のレビュー/プレビュー
木村恒介展―光素(エーテル)の呼吸―
会期:2014/09/04~2014/11/24
LIXILギャラリー[東京都]
床から天井まで届きそうな大きな鏡が3枚ずつ直角に立っている。「じっと鏡を見てください」という指示どおりじっと見ていると、鏡像がわずかずつ動いていることに気づく。鏡の背後に空間があるので、鏡そのものを機械で動かしてるんだと思って縁を凝視してみるが、動いてるようには見えない。よく見ると鏡像が歪んで見えるので、これはきっと鏡全体ではなく鏡面を何らかの方法で波打たせているに違いない。鏡は真っ平らで硬いものという常識をくつがえし、鏡の原点である水面を垂直に立ててみたのかもしれない。別の部屋には水平にさまざまな色の線が走った写真が展示されている。銀座の風景写真だというので、三脚にカメラを据えてグルッと水平に回して撮ったんだろう。具体的なイメージはなにも残ってないが、昼夜の違いや繁華街の華やかさは見事に写し出されている。どちらの作品も日常的な視覚を揺るがす意図があるようだが、それとは裏腹に「どうやってつくったんだろう」という技術的な問題が気になってしまう。
2014/09/12(金)(村田真)
Under 35 Architects exhibition 2014
会期:2014/09/04~2014/10/04
ITM棟10階大阪デザイン振興プラザギャラリー[大阪府]
大阪ATCのU-35(「Under 35 Architects exhibition 2014 35歳以下の新人建築家7組による建築展覧会」)展へ。平沼孝啓が企画に関わり、これで5回目になるが、今年からU-30を35に引き上げ、石上純也が審査員をつとめて、7組を選ぶ。年上になった分、最初の実施プロジェクトが増え、やや堅実な案が増えたが、なかでも海外組のプレゼンがユニークだった。筆者が司会を担当したシンポジウムでは、五十嵐淳をはじめとする年長組からのダメだしよりも、20代のときから知り合いだった藤本壮介×平田晃久のトークが白熱する。今回参加したU-35のメンバーたちも、将来こういう関係になるといいだろう。
2014/09/13(土)(五十嵐太郎)
生誕140年 中澤弘光展─知られざる画家の軌跡
会期:2014/09/12~2014/10/13
そごう美術館[神奈川県]
日本近代美術史に詳しい人でない限り、中澤弘光の名前は知らないだろう。ぼくも東京国立近代美術館にある日傘を差した女性像《夏》しか知らなかった。逆になんでこの作品を知ってるのかというと、かつて同館に務めていた本江邦夫氏がこの作品の「光」について熱く語っていたことがあるからだ。でもぼくには、手の大きさに比べて異様にデカイ顔や、画面右に偏った破格の構図が気になって「光」を十分に味わえなかった。そんなこともあってちょっと気になっていたのだ。中澤は東京美術学校などで黒田清輝に師事しただけあって、《夏》をはじめ光に満ちた(つまり白っぽい)絵が多い。白っぽいといっても、たとえば尼僧の前に観音が現れる《おもいで》は黄金色の光を放っているし、2人の田舎娘を描いた《まひる》は青を中心とした点描風だし、海辺で海苔を採る娘に天女が降りてくる《海苔とる娘》にはボナール風の華やぎがある。でも今回これだけ見せられて、光より目を引いたのは、油彩画の技法と日本的・土着的モチーフとのギャップだ。観音や天女もそうだが、晩年の《鶴の踊り》はほっかむりした和服の女性たちが田んぼでツルと一緒に踊ってるし、《誘惑》では修験道の行者のまわりに鬼や裸の美女が総動員で誘惑するなど、ほとんどお祭り状態。これが日本画ならまだ現実感が薄くて救われるが、油絵でリアルに描かれているので違和感がものすごい。もうひとつ、これも黒田の影響かもしれないが、生涯に何枚も舞妓の絵を描いてるのは、やはり油絵で日本的モチーフをわがものにしたかったからなのか。それとも単に女遊びが好きだっただけなのか。ともあれ、頻度は減ったものの、そごう美術館はたまにいいのをやる。
2014/09/13(土)(村田真)
「これからの写真」展、APMoAプロジェクト・アーチ
会期:2014/08/01~2014/09/28
愛知県美術館[愛知県]
メディアで騒がれただけに、鷹野隆大の裸体表現とその対処が話題になりがちだったが、他の作品も充分に興味深い。被災を題材とする新井卓や田代一倫。また鈴木崇、木村友紀、田村友一郎らは、空間や場をつくり、写真の枠組を超える試みだった。とくにモノそれ自体の高解像度の写真を1/1のスケールでモノに張りつけて、表面に対する認識の揺らぎをもたらす、加納俊輔が印象的だった。また常設のエリアでは、美術館があいちトリエンナーレ2010と2013で展示された志賀理江子の写真25点を新規購入したが、黒いフレームに入れ、これまでのインスタレーション的な見せ方とは装いを変えて展示している。APMoAプロジェクトでは、末永史尚が県美の作品をもとに、額縁までを含めた絵画(しかし、絵の中身は表現せず)を制作する。大塚国際美術館の額縁効果を思いだし、ニヤリとさせられる。
2014/09/14(日)(五十嵐太郎)
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展
会期:2014/09/06~2014/10/26
名古屋市美術館[愛知県]
巡回展なので、東京国立近代美との見せ方の違いが興味深い。例えば、中国近代美術のセクションは二階の後半に移動し、逆にリヒター、杉本博司、シュトゥルートらの作品が早めに登場する。また東京が明快に空間として各部屋を分節していたのに対し、名古屋では既存の可動間仕切りを使いながら、各セクションはゆるやかに連続していく雰囲気だった。
2014/09/14(日)(五十嵐太郎)