artscapeレビュー

2016年03月15日号のレビュー/プレビュー

伊勢神宮

[三重県]

三度目の伊勢神宮だが、朝は初めて。早朝から内宮には多くの参拝者が集まっているのに驚かされた。遷宮されたばかりの新しい建築だから、もっとも瑞々しい状態である。続いて外宮へ。よく考えてみると、正宮の敷地内にいくつかの大木が生えているのは、かなり大胆なランドスケープである。そして神宮の造営を一手に引き受ける山田工作場を見学した。通常の仕事とは違い、長期的な計画を前提とした材料の管理や、大工が増えたり、減ったりする20年の工程のサイクルなどをうかがい、非常に興味深い場所だった。

写真:上から順に伊勢神宮内宮/別宮・風日祈宮、外宮/豊受大神宮、正宮敷地内

2016/02/07(日)(五十嵐太郎)

建築ウォッチング「建築家と伊勢を歩こう」(建築ラリー2016「建築からまちへ──地域の中での建築家の役割」)

[三重県]

続いて「建築ウォッチング 建築家と伊勢を歩こう」に参加した。まず最初に栗生明が設計した《せんぐう館》を見学する。内部の展示では、1/1の部分的に再現された巨大な神宮があり、なるほど、これはハイライトだった。そして吉田鉄郎による《ボン・ヴィヴァン》で昼食をとり、伊勢山田の街並み散策を行なう。世古、《山田館》、《御師邸》土塀、畑医院、北御門通、神路通、《東邸》、《月夜見宮》など、地元の建築家ならではの詳細な解説で楽しめた。こうした企画が全国各地で行なわれるといいのではないか。

写真:左上=《せんぐう館》、左中=《ボン・ヴィヴァン》、左下=《山田館》、右上=《御師邸》、右中=畑医院、右下=《月夜見宮》

2016/02/07(日)(五十嵐太郎)

青木陽「Inverted Spectrum」

会期:2016/02/09~2016/02/26

ガーディアン・ガーデン[東京都]

青木陽の写真の仕事には以前から注目している。2013年に東川町国際写真フェスティバルの一環として開催された「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション」でグランプリを受賞し、翌14年に東京・東銀座のArt Gallery M84で展示された「火と土塊」のシリーズでは、濃密なグレートーンのセレニウム調色のプリントに徹底してこだわり、印画紙上に別次元の現実を構築する。ところが第12回写真「1_WALL」展グランプリ受賞者個展として開催された「Inverted Spectrum」では、まったく異なるアプローチを試みていた。
青木が今回の写真制作を通じて見出そうとしているのは、「自分自身の置かれた状況を含む現実の中で発生する出来事の意味」である。1990年代から2000年代にかけて、女性写真家を含む若い世代が、物語性を欠いたごく私的な日常の出来事を、あたかもそのまま撒き散らすような写真を提示し、それらが広く受け入れられた時期があった。写真新世紀や写真「1_WALL」展の前身である写真「ひとつぼ」展などの審査をしていると、たしかにこの種の「日々の泡」のような写真群を大量に目にすることができた。青木の今回の試みは、かつては感覚的、無自覚的におこなわれていたプライヴェートな出来事の写真化を、論理的、自覚的に再検討しようとするものといえる。
会場に展示されているのは「ホームの扉」、「電車のシート」、「コップ」、「台所のタイル」といった「ごく身近な人々、生活の一部、時々の目先の出来事」などの断片的な画像である。だが、青木の手にかかると、それらに奇妙なバイアスがかかっているように見えてくる。手が届くようで届かない、ありそうであり得ない事物や事象──あたかもカフカの小説の中に描写されているオブジェや風景のようでもある。曖昧でありながら明晰でもあるこれらの写真群は、もしかすると「私写真」の伝統を受け継ぎつつ再構築する、新たな写真表現の可能性を孕んでいるのかもしれない。青木が次に何を見せてくれかが楽しみだ。その行方を注視していきたい。

2016/02/10(水)(飯沢耕太郎)

原田直次郎 展──西洋画は益々奨励すべし

会期:2016/02/11~2016/03/27

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

“油絵の先駆者”高橋由一と“近代絵画の立役者”黒田清輝のあいだに、渡欧して油彩技法を身につけた洋画家が何人かいる。五姓田義松、山本芳翠、松岡寿、原田直次郎ら明治美術会の画家たちで、みんな抜群に絵がうまい。由一や清輝よりうまいと思う。なのに由一と清輝の陰に隠れてほとんど日の目を見なかったのは、モダニズムとナショナリズムのせめぎ合いに揺れた明治美術史のいたずらというほかない。とりわけ原田直次郎は36歳で夭逝したこともあって、没後10年の1909年に親友の森鴎外が企画した遺作展以来、本格的に紹介されたことはなく、今回がじつに100余年ぶりの回顧展になるという。ただ活動期間が短かったため作品点数が少なく、松岡寿や大下藤次郎、ドイツで交流のあったガブリエル・フォン・マックスやユリウス・エクステルらの作品も出ているため、キャプションを確かめずに絵だけ見てすべて原田の作品だと勘違いするアホもいるかもしれない。原田の代表作《靴屋の親爺》や《老人》なんか何点も出ているから要注意だ。まあこれだけ作品が模写されるというのは、いかに原田が慕われていたかということの証だろう。この《靴屋の親爺》や《老人》などはよくも悪くも日本人離れした技量を誇るが、帰国後ナショナリズムの吹き荒れる日本では受け入れられず、《騎龍観音》や《素尊斬蛇》といった日本的主題に基づくキッチュな折衷絵画に向かわざるをえなかった(前者は埼玉には出品されず、後者は関東大震災で焼失)。こういう逆境のなかで制作した苦肉の作品というのは、いつの時代にも興味深いものだ。いずれにせよ、歴史のはざまに埋もれて目立たなかった画家の発掘は公立美術館の重要な役割だと思う。

2016/02/11(木)(村田真)

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ねもしゅー企画vol.2 ねもしゅーのおとぎ話「ファンファーレサーカス」

会期:2016/02/11~2016/02/14

新宿FACE[東京都]

夢見がちな少女が、妖精の誘いで童話の世界に入り込むというのは、よくありがちな導入部である。しかし、納得のいかないラストになってから、今度はその内容を書き換えていく、メタフィクション・ファンタジー×くるくるバレエ×グラム・ロックの生演奏がかぶさり、カラフルな衣装で華やぐ、勢いのある演劇だった。

2016/02/11(木)(五十嵐太郎)

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