artscapeレビュー
2009年02月15日号のレビュー/プレビュー
日常の喜び
会期:10/25~1/18
水戸芸術館[茨城県]
淺井裕介、大巻伸嗣、アトリエ・ワンら近ごろ引っぱりダコの作家や、宮島達男、日比野克彦ら水戸芸常連作家が大半を占め、そのプラス面とマイナス面が出ている。プラス面は品質が保証されていること、マイナス面はデジャヴュ感が否めないことだ。ガイ・ベンナーの《ツリーハウス・キット》は、以前ヴェネツィア・ビエンナーレでも見たが、物理的にもコンセプト的にも骨格がしっかりしているのでやはり圧巻。注目株の淺井による入口の壁画は力作だが、見事な出来映えだけに装飾的に映ってしまい見すごされがち。それより水戸駅前の柱に密かに施した落書きのほうが感動的だ。
2009/01/18(日)(村田真)
せんたんまる
会期:1/17~25
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
NYKの1、2階を使った東京藝大大学院の先端芸術表現専攻の修了制作展。さすがに平均点の高い作品が並ぶが、「これはすごい!」というのはない。市民からプランを募集して実現させるという南川憲二の《Wah Document》は、実行力とバカバカしさで一馬身リードか。
2009/01/19(月)(村田真)
メディア・プラクティス08-09
会期:1/17~25
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
NYKの3階でやってるのは、同じ藝大大学院の映像研究科メディア映像専攻による年次成果発表会。映像だからパスしようかと思ったが、タダなので入ったら意外と楽しめた。ボケた映像の前に虫メガネを置くとシャープに見える(渡辺水季)なんてのは、映像界では珍しくもない常識的なネタかもしれないが、けっこう驚いたりもする。手振りの軌跡をそのまま線で表わした細川泰生《イメージに補助線を》、架空の写真家のドキュメントを編んだ村上華子《内田光画子の創造》なんてのも、どこかで見たことあるかもしれないけどおもしろい。
2009/01/19(月)(村田真)
加山又造 展
会期:1/21~3/2
国立新美術館[東京都]
「裸婦」シリーズを除いて、どこがいいんだかよくわからない。たぶん一生いいと思わないだろうなあ。まるで別の世界だもん。
2009/01/20(火)(村田真)
高梨豊「光のフィールドノート」
会期:2009/1/20~3/8
東京国立近代美術館[東京都]
展覧会のタイトルが「光のフィールドノート」。展示されている作品を入り口から順番にあげると、「SOMETHIN’ELSE」「オツカレサマ」「東京人」「都市へ」「町」「東京人1978-1983」「都市のテキスト」「都の貌」「next」「地名論」「ノスタルジア」「WINDSCAPE」「囲市(かこいいち)」「silver passin’」。
どれも文学的な教養を介してよく練り上げられ、的確にその内容を言い当てている。高梨豊が何よりも考えつつ写真を撮ってきた作家であることが、これらのタイトルにはよくあらわれている。
だがその写真が理屈っぽく、観念的かといえば決してそうではない。ポートレートなどでは演出的な写真もあるが、高梨の真骨頂はスナップショットであり、そこでは思惑を捨ててひたすら歩きまわり、イメージの「拾い屋」に徹し切っている。都市も田舎も、彼ほど日本全国を移動している写真家は、ほかにあまりいないだろう。撮ることの身体性をよく熟知しつつ、思考の抽象性もまた同時に研ぎ澄ませていく──知力と体力の素晴らしくバランスがとれた結合を、今回の処女作から未発表の新作まで、約250点で構成された回顧展で愉しく、しっかりと確認することができた。
個人的には「初國」のパートが一番見応えがあった。1980年代~90年代初頭にかけて、日本各地の「聖地」を訪ね歩いたシリーズだが、そこにはこの国に特有の土地の手触りが見事に捉えられていると思う。
2009/01/20(火)(飯沢耕太郎)