artscapeレビュー

2009年02月15日号のレビュー/プレビュー

うつゆみこ「はこぶねのそと」

会期:2009/1/23~2/22

G/P gallery[東京都]

2006年、第26回「写真ひとつぼ展」でグランプリを受賞。このところ国内外での発表の機会も増え、僕を含めて一部ではかなり盛り上がっている期待の新鋭の、新作を含む作品展である。
オープニング前の、まだ展示が全部終わっていない雑然とした会場で、思いついたことをメモしながら作品を観た。その一部をここで公開してしまおう。
「サツマイモの芋虫化 ジャガイモの芽の一部のモグラ化 少女化するシャコ 見立ての凄み メタモルフォーゼの暴力的自己増殖 色彩の自立と細胞分裂 脳内ドラッグ 汎ゲロ世界 かわいい/グロテスク/エロいの三位一体 アイディアのてんこもり キノコをもっと増やせ! のろい(slow)呪い 現実世界に寄生するオブジェたち はこぶね=ノアの方舟?」
うつゆみこの凄みと魅力が少しは伝わるだろうか。なおメモの最後に書いた「はこぶね=ノアの方舟?」という答えはやはり正解だった。うつゆみこの作品のなかで「メタモルフォーゼの暴力的自己増殖」しているのは「はこぶねのそと」に放逐された「呪われた動物たち」だったのだ。神に方舟に乗り込むことを許されなかった、へんちくりんな生命体の方が、ノアをはじめとするまともな生き物たちよりずっと魅力的であることは、彼女の作品を見ればすぐにわかるだろう。もう一つ、絶対そうだろうと思っていたのだが、うつゆみこが一番尊敬している画家はヒエロニムス・ボッシュだそうだ。

2009/01/23(金)(飯沢耕太郎)

Izima Kaoru『Landscapes with a Corpse』

発行所:Hatje Cants

発行日:2008年

うつゆみこの展覧会の隣のギャラリー、アートジャムコンテンポラリーで伊島薫の展示も行なわれていた。展示そのものはあまり力が入っていなかったのだが、彼が昨年ドイツのHatje Cants社から刊行した写真集『Landscapes with a Corpse』を販売していたので、いい機会だと思って購入してきた。
この「死体のある風景」のシリーズは、1994年、伊島が編集していたファッション誌『ジャップ』に小泉今日子をモデルにスタートしているから、もう15年も続いているわけだ。モデルの交渉からはじまって、ロケ地を選び、セッティングし、撮影するという気が遠くなるような作業の積み重ねであり、尋常ではないエネルギーが費やされている。それがこのような形で国際的に評価されるようになったのは、とても素晴らしいことだと思う。
ただ、どうも日本での評価が低いように感じる。おそらく「女優が死体を演じる」というコンセプトそのものが、やや際物に見えてしまうことがその一つの理由だろう。死者を撮影することのタブーがかなり強固なこの国では、「本物」はともかく、それをわざわざ演じるという行為に対する違和感があるのではないだろうか。さらに登場するモデルが、TVや映画で人気のある女優や歌手であることが、諸刃の刃になっているようだ。彼女たちが「まじめに」演技すればするほど、どこかしらけてしまう。その点、外国では彼女たちはほとんど無名なので、逆にニュートラルに「死体のある風景」として眺めることができるのではないだろうか。いずれにせよ、伊島薫という写真家の本質である、体育会系のノリのよさが充分に発揮された快作(怪作?)である

2009/01/23(金)(飯沢耕太郎)

松山淳 個展 ダイエット菩薩「翻弄」

会期:1/13~1/25

立体ギャラリー射手座[京都府]

前回は、ファッションモデルが四天王像になった彫刻作品を発表していたが今回もインパクト強烈。Before、afterという水着姿の女性の二枚の写真が掲載された、すっかり見慣れた雑誌のダイエット広告そのままのイメージの2体の女性の像のモデルは薬師寺の日光・月光菩薩立像だという。さまざまな広告メディアに翻弄されるわれわれの姿を仏像というかたちで表現した作品。垂れ下がった耳やどこかありがたい顔の表情など、やはりベースは仏像なのだが、近づくと顔が森三中の村上に見える! 職人技と言える造形力にユーモアが光る。作品のファイルを見せてもらったが、謝罪会見する企業役員をモチーフにした金印など、以前の作品も気になった。次回の展開が楽しみだ。

2009/01/25(日)(酒井千穂)

ミース・ファン・デル・ローエ賞展

会期:2009/1/21~1/27(第一会場)/1/21~2/11(第二会場)

東京都庁第一本庁舎南塔45階展望室(第一会場)/第二会場:新宿パークタワー1階 ギャラリー1(第二会場)[東京都]

ヨーロッパのもっとも優れた建築に与えられるミース・ファン・デル・ローエ賞の展覧会。日本風に味付けされた展覧会というよりも、ダイレクトにヨーロッパで行なわれた展示をそのまま巡回展示している雰囲気が、新鮮だった。2つの会場で開かれ、都庁の第一会場は無料で、パネル展示とバルセロナ・パヴィリオンの模型などを展示。第二会場は有料で、こちらはパネルのほか、過去のミース賞受賞作、奨励賞受賞作、ノミネート作などの模型数十点を見ることが出来る。
ミース賞は、1988年にはじまり2年ごとに与えられている。2001年からはミース賞のほか、若手への奨励賞という2つの賞が生まれた。毎年、数百の作品がヨーロッパ中から送られるという。「EU現代最優秀建築賞」というように、「ヨーロッパ」の建築賞でもある。ヨーロッパの建築家が、ヨーロッパに建てている建築であることが条件。ただヨーロッパの境界は簡単ではなく、例えば2001年以降、スイスの建築家がミース賞を取得することは出来なくなった。しかし、今回日本で展示されたように、ヨーロッパだけに閉じられた形ではなく、例えば審査員では過去に伊東豊雄や妹島和世といった日本人も参加している。
ほかの賞との比較でいうと、イギリスのRIBAゴールドメダル(1848-)、アメリカのAIAゴールドメダル(1907-)、国際建築家連合のUIAゴールドメダル(1984-)、またアメリカのプリツカー賞(1979-)、イギリスのスターリング賞(1996-)が、いずれも建築家に与えられるのに対して、ミース賞は作品に対して与えられる賞。ほかに作品に与えられる賞では、イスラム建築に与えられるアガ・カーン建築賞(1977-)やフランスのエケール・ダルジャン賞(銀の定規賞、1983-)などが有名。EUの賞であるミース賞の特徴は、現在のヨーロッパ建築の動向が見えてくるところであり、今回の展示もヨーロッパの過去20年の建築を見せるという主旨がある。
展覧会では、第二会場に入って左の部分に過去の受賞作、右の部分にノミネート作の模型が展示。個人的には左の作品はよく知られたものであったので、むしろ受賞に至らなかったノミネート作品の方が面白かった。日本で知られていない作家がかなり多く、確かにヨーロッパで雑誌を見ていると、目にしそうな作品群であるが、ヨーロッパの現状をフィルターなしに見せる好展覧会であると感じた。一方で、作品説明は少なく、これをどう見てよいか分からないという人も多かったかもしれない(そのために、別に関わっている「建築系ラジオ」で、オフィシャルではないが、オーディオ・ガイドを制作した)。とはいえ、おそらくヨーロッパではこのまま展示していたわけで(2007年にマドリッド、2008年にパリで同じ展覧会が開かれている)、この展覧会の良さのひとつは、ヨーロッパの生の空気をそのまま味わえるところにあったのかもしれない。学生にとっては、模型の表現力の多様さと豊かさは、日本と異なる部分が多く、かなり刺激になったはずだ。

2009/01/26(月)(松田達)

LYON to YOKOHAMA/LUMIERE BROS to SHIMURA BROS

会期:1/23~2/8

創造空間9001[東京都]

幾重にも重ねたスクリーンの向こうから機関車が走ってくる映像が映し出される。これは9001における「YOKOHAMA創造界隈コンペ2008」の受賞作品。世界で初めて上映された映画は、リュミエール兄弟による機関車の疾走するシーンだったといわれているが、それを日本で初めて鉄道が走った桜木町で再現してみた作品。作者はシムラ兄弟。アイディアはすばらしいし、東急東横線桜木町駅の跡地ならではのオリジナルなプランなのだが、見せ方や空間の使い方にはもう少し工夫の余地がある。

2009/01/26(月)(村田真)

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